~続編~「水俣病患者の全員救済を」、原告らが国会議員に訴え

 公害の原点とも言われる水俣病の被害者救済政策に大転換をもたらす『水俣病被害者救済法案』は、与野党合意により可決・成立する可能性が出てきた。「被害者切捨てだ」と危機感を強める水俣病訴訟の患者・原告団が25日から国会前で座り込みを続けている。
 同法案の骨子は主に「チッソの分社化」と「水俣病の地域指定の解除」からなる。
 チッソは水俣湾に有機水銀を20年以上(1946~68年)に渡って排出し、水俣病を引き起こした加害企業である。「チッソを分社化すれば責任の所在があいまいになる」と患者・原告団は反発する。分社後、親会社チッソは消滅するからだ。彼らが『水俣病被害者救済法案』を『チッソ救済法案』と呼ぶゆえんだ。
 水俣病が「公害健康被害補償法」に定める地域指定から解除されれば、以後発症者の認定の道は閉ざされてしまう。
 「水俣病認定」を待つ申請者は約6千人、水俣病に似た症状があるとして医療費補助の申請を出している人は約2万4千人もいる。地域指定が解除されれば、計3万人のうち相当数は救済が絶望的になる。
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水俣病被害者の全員救済を求める原告団(国会前で。写真=筆者撮影)

 与野党合意が成立した背景にはアメとムチがあった。ムチは「チッソの分社化」と「水俣病の地域指定の解除」で、アメは水俣病の認定範囲を広げるというものだ。
 現在、感覚障害の要件は「触覚」と「痛覚」の2つだが、新法の基準はどちらか一つでも感覚障害と認定される。体のしびれは「手足」に限られているが、全身のいずれかの部位にまで広げられる。この「アメ提案」に乗った団体の強い要求に促されて与野党が合意したとの見方が有力だ。
 救済される人は一時的には増えるが、胎児性や小児性などの潜伏患者が将来発症しても認定申請さえできない。親会社チッソがなくなれば加害者責任を問うことが難しくなる。
 
 「不知火患者会」事務局長の瀧本忠さんは「被害者を切り捨てフタを閉じてしまおうというのが国のやり方だ」と憤る。
 原告・弁護団は25・26日の両日、のべ40人の国会議員を訪ね同法案への反対を訴えた。だが、ほとんどの議員や秘書は水俣病の実態を知らなかった。発見されて半世紀余りも経ち、もはや政治の争点となっていないからだろう。
 「被害者の苦しみを分かっているのか?国会議員とはそんなものか」。弁護士が環境問題担当の野党議員に激しく詰め寄る場面もあった。
 ある原告女性(65歳)は、足がしびれ味覚に障害がある。頭痛は絶えず、肩の痛みを鎮める週2回のブロック注射が欠かせない。「国会議員は被害者の苦しみを聞いてほしい。聞いたら、こんな法案が通るわけがない。あなた方の一票に響くよ」。女性はマイクを握り締め、涙声で訴えた。
 原告団が最もこだわるのが全員救済だ。原告団「不知火患者会」の桑鶴親次・副団長は「中味のはっきりした救済案でなければ我々は納得できない。すべての患者を救済する法案でなければ賛成できない」と強調した。
 患者・原告たちは来週(29日~)も国会前で座り込みを続ける予定だ。

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