景気後退による人員削減で派遣をはじめとする非正規雇用労働者数十万人が年度末までに解雇されることが予想されるなか、派遣労働者のユニオンが4日、参院議員会館で厚労省と交渉を持った。
ユニオンは「(大量解雇体制に突入した)メーカーなどへの指導」を強く要請したが、厚労省側はあいまいな答弁に終始した。
厚労省の“調査”によると、いわゆる「派遣切り」や「非正規切り」により3万人が職を失う。ところがこの“調査”とは対象が主要メーカーだけなのだ。
自動車メーカー本社が発表しているだけでも1万人を超える。自動車メーカー本体に連なる下請けの部品メーカーも真っ先に非正規労働者を解雇する。家電もあればカメラメーカーもある。小売、流通もある。
「派遣切り」「非正規切り」は数十万人と見るのが妥当だ。ユニオンも数十万人と推定し、労働問題に詳しい社民党の福島みずほ党首は「3万人は氷山の一角」と見る。
メーカーで働く派遣労働者や期間工のほとんどは寮に住んでいるため、解雇されると住居も失うことになる。多くは貯金もなく、次の仕事のあてもない。巷にホームレスが溢れることさえ考えられる。
派遣労働者のユニオンが先月29~30日に行った「派遣切りホットライン」には全国から472件もの相談が寄せられた。代表的なケースを以下に紹介する――
「3月までに契約が残っているのに『12月末で終了。1月5日に退寮しろ』と言われた。ハローワークに行っているが仕事は見つからない。不動産屋では『定職がないと保証人代行は難しい』と言われた」(30代・男性)
「郷里に帰っても住む所がない。貯蓄も全然ない。市役所に電話したが『生活保護は無理』と言われた」(50代・男性)
4日、ユニオンが交渉する厚労省に直訴するため参院議員会館を訪れたAさん(50代・男性)は、派遣労働者が現在置かれている状況を象徴しているようだった。Aさんは厚木の自動車部品工場で派遣労働者として働いている。
「(6月まで契約が残っているのに)10月31日の夕方4時、『きょうで終わりだから』『12月16日までに寮を出ていってくれ』と言われた。金もなくて途方に暮れている」。Aさんは力なく訴えた。
記者団には「所持金は3万円。ホームレスという言葉は聞きたくないけど、考えると(そうなるかもしれないので)怖い」と語った。派遣会社からマージンのうえに寮費を毎月4万円さっ引かれるのだ。冷蔵庫、テレビの使用料も引かれる。貯金などできようはずがない。
トヨタに指導できない厚労省
「派遣切り」「非正規切り」の最大の特徴である契約期間満了前の解雇は、法律違反にあたらないのだろうか? ユニオンは厚労省を追及した。
厚労省は「中途解約自体は労働者派遣法上違法ではない」との見解を示した。だが「派遣労働者の雇用の安定の観点から考えると好ましくない」ということだ。このため「都道府県の労働局に通知を出して、問題があれば指導してゆく」(雇用政策課課長補佐・平嶋壮州氏)のだそうだ。
これに対してユニオン側は「トヨタに指導したことがあるのか?」と詰め寄った。厚労省は「具体的な事例は申しあげられない。問題を把握した場合は・・・」とお役所答弁で逃げた。
厚労省がトヨタを指導できていれば「派遣問題」などこの世にないだろう。秋葉原の通り魔事件も起きていなかったかもしれない。
メーカーの製造ラインへの労働者派遣を解禁したのは、2004年の法改正だった。規制緩和を錦の御旗に掲げる経済財政諮問会議で経団連代表の委員を務めていたのは、奥田碩トヨタ自動車会長(当時)だ。労働者派遣法は業界のためにあると言ってよい。
さらに重大な問題提起がユニオンからあった。「寮費を毎月4万円も払っているのだから、いきなり『寮から出ていけ』というのは『借地借家法』違反にあたらないか?」ということだ。
厚労省の答えは「検討します」。予想通りだった。麻生政権は混迷を深めており、官僚もこの調子だ。年末年始には炊き出しを求める失業者の長い列が街のあちこちにできるかもしれない。