文・写真 山中千鶴 / ライター
将来の発展の見込みがない地区とされても、自分たちで豊かな暮らしをしよう――。
浜松市の山間部に位置する緑豊かな鎮玉地区。全国的な「コンパクトシティ化」の動きを受けて、各種の行政サービスからこぼれそうだ。
早くもこの春から市内中心部に行くバスの便が減らされ、高校生は早朝の通学に不便をきたすようになった。
近くにできた新東名高速のインターチェンジ周辺も開発プランから外れたようで、今では残土置き場として使われている。
都市部から新しい人を呼びこんで活性化しようにも、思い通りにいかない。
今後策定される立地適正化計画で「居住誘導区域外」に指定されるような地域には、移住して新たに家を建てようとするもの好きはいないのである(※)。高齢化は進む一方だ。
コンクリートの耐用年数等から考えると、今後20年の間に、鎮玉地区の道路や水道管の多くは工事が必要になる。
だが浜松市はそれにかかる費用をセーブする一方で、市内中心部での再開発を積極的に推進している。山間部は置き去りにされるのだ。
「私たちはこのままここでのたれ死んでいけっていうわけ?」この土地に嫁入りして30年を超した主婦は憤る。
「慣れない土地に来て、古くからのしきたりに戸惑いながら何とか子どもも育ててきて、今ではここがふるさとなのに」。
畑で雑穀を栽培する80代の男性も、国の政策の話をすると温厚な顔を曇らせる。「立地適正化計画の理念は理解できるが、だからと言って代々何百年も住んできた土地を離れるつもりはない」と口を結んだ。
ただ、住民も手をこまねいて事態を静観しているだけではない。国の方針や世間の流れは覆せないとしても、せめて自分たちができる努力はしようと、将来につながる小さな取り組みをいくつも始めている。
「見捨てられる土地」で生き生きと暮らす人びとの取り組みを追った。
~つづく~
(※平成26年に改正された都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画では、居住エリアが指定され、行政サービスは誘導区域内を中心に進められる。つまり、区域外のサービスは衰退していくことになる。)