22日午後1時頃、中心都市シンフェロポル。まだウクライナ国旗があがる同国軍司令部にロシア兵の運転する装甲車が土埃を巻き上げて突入した。ロシア軍の歩兵一個小隊が自動小銃を構え遠巻きにする。
ロシア軍が強硬策に出たのは、投降期限の21日を半日あまりも過ぎていたからだ。装甲車が入ると間もなく、基地の撤収作業が始まった。
ロシア軍の監視下、ウクライナ軍兵士たちが抗戦の象徴でもあった鉄条網や土嚢などを片付けてゆく…最後は基地の庭を掃き清めた。
フェンス越しにウクライナ兵に尋ねた。
「投降は悔しくないか?」
「悔やむ(答えを出す)のはまだ早すぎる」。
兵士はニガ虫をかみ潰したような表情で答えた。
ロシア軍とは圧倒的な力の差がある。にもかかわらずウクライナ新政権は「撃て(戦え)」と指示する。その新政権は政府の体をなしていない。「投降が決まって良かった」。彼は内心胸をなで下ろしているのではあるまいか。
一方で「我々はすでにロシア軍だ」と喜色満面の兵士もいた。
同じ頃、クリミア半島南部のベルベク空軍基地にもロシア軍が突入していた。基地のマジョリティーはウクライナ系だったためロシアへの投降を拒んでいたのだ。
3月2日、ロシア軍によって空港を占拠された後、部隊が空港に近づこうとしたところロシア軍の威嚇射撃を受けた。ベルベク空軍基地はロシア軍のクリミア半島進駐当初から他の基地以上に緊張感に包まれていた。
装甲車がゲートを突破したためフェンスはねじ曲がっていた。またもや威嚇射撃があったようだ。
最終的には投降したものの最後まで基地に立てこもり抵抗したウクライナ空軍将兵たちの処遇はどうなるのだろうか。
占拠後間もない頃、兵営でフェンス越しに面会していた兵士と娘(写真)を思い出す。父と娘は今後どうなるのだろうか。気になって仕方がなかった。現場に駆け付けたが、基地の正門にはロシアの国旗がすでにあがっていた。
クリミアに展開するウクライナ軍はロシア軍の南部戦略軍管区に編入される予定だ。将兵は希望すればロシア軍に入隊できる。ウクライナ本土に帰ることも可能だ。ただウクライナに帰れば軍規違反で逮捕される可能性が高い。
地元メディアによるとクリミア駐在のウクライナ軍兵士1万8千人のうち1万6千人がロシア軍に入隊を希望している。2千人はウクライナ本土に帰るという。ロシア軍に入隊すれば給料は3倍にもなる。