クリミアのロシア化が着々と進む。21日、ロシア政府はクリミア市民にロシアのパスポートを発給する手続きを始めた。
中心都市シンフェロポルの政府施設に設けられた臨時パスポートオフィスでは、受付開始の午前9時(日本時間午後4時)に人々が長蛇の列を作った。東京地裁前で裁判の傍聴券を求めて人々が並んでいるような光景だ。
臨時パスポートオフィスを訪れたクリミア市民たちは、ウクライナのパスポートを係官に見せ、係官は出生地などをチェックして登録した。ロシアのパスポートは10日後に発給される。
ロシア政府はクリミア市民がウクライナとロシアの2つのパスポートを持つことを認める。ウクライナ政府は認めていない。
年金生活者の男性(72歳)は正装で登録に訪れた。「我々はロシア市民なのだからロシアのパスポートを持って当然だ。この日を23年間も待った。ウクライナのパスポートは要らない。捨てる」。男性は興奮気味に語った。
23年間とはアル中のエリツィン大統領が酩酊状態で「クリミア半島はウクライナに帰属する」とする書類にサインしてしまった1991年からのことを指す。
働きざかりはロシアのパスポートで得られる実利を歓迎する。ある男性(38歳・技術者)は「ウクライナでは自分の能力が活かせない。ロシアに併合されて仕事の環境は100%良くなると思う」と目を輝かせた。
ウクライナのパスポートは捨てるのか?と筆者が問うと、彼は「いや、キープする」と答えた。理由は「ウクライナの銀行口座を閉じる時にウクライナのパスポートが必要だから」。
「俺の話を聞いてくれ」。タタール人男性(50代)が話かけてきた。タタール人は第2次世界大戦中、スターリンによってウズベキスタンに強制移住させられた苦い経験を持つ。男性は苦難の歴史をひとしきり語り終えると現在の複雑な心境を明かした―
「戦争はしないと言っていながらロシア軍を進駐させているプーチンをどうして信用することができよう。でも仕事を得るためにはロシアのパスポートを持っておいた方がいい」。
パスポートに寄せるさまざまな思いは、歴史に翻弄されてきたクリミアの人々の心情を映し出しているようだった。
この日はロシア議会がクリミア併合を最終承認した。即日パスポートの登録を始める。パスポートは「クリミア市民がロシア国民であること」を国際社会に認めさせる重要なツールだ。プーチン大統領の早手回しには驚く他ない。