政府のやる気のなさ、意図的なサボタージュに対する住民の怒りが、とうとう裁判の場に持ち込まれた。「原発事故子ども・被災者支援法(※)」の成立から1年が経つのに基本理念に沿った方針が決まっていないのは、「違法である」などとして福島の住民らが、きょう、国を提訴した。
訴えたのは福島県内の汚染地帯などに残留している7人と他地域に避難した12人の計19人。放射能に県境はないため宮城県丸森町と栃木県那須塩原市の住民もこの中に含まれる。
「原発事故子ども・被災者支援法」は第2条(基本理念)で「支援対象地域に居住、他地域への移動は本人の意思によるものとし、いずれを選択した場合でも適切に支援するものでなければならない」と定めている。「汚染地帯に留まっても、避難しても、それは本人の自由で、どちらを選んでも行政からの支援を受けることができる」という意味だ。
ところが現状は国の指定地域以外からの避難は支援されない。基本理念からして破られているのである。
国が避難区域に指定した地域以外の住民が、他県に移動するには旅費は自分で出さねばならない。移動先の住宅もまるまる自費で確保しなければならない。「移動や住宅確保の支援」を謳った支援法第9条違反である。
福島県から出れば県民健康調査も受けられなくなる。高額の「甲状腺超音波検査」も自費となる。支援法第13条で定めた「子どもや妊婦への医療費減免」に反することになる。
政府の無策は、法律違反のテンコ盛なのである。「原発事故・子ども被災者支援法」の早期実現を求める集会やデモが頻発するのも道理だ。
お茶を濁すためか、政府は3月に「被災者支援パッケージ」なるものを発表した。政府の本音が丸見えで腰を抜かす内容だ。福島に帰還させるための事業ばかりなのである。
原告弁護団の福田健治弁護士は「避難と(そのまま)居住のどちらでも選べる支援法の趣旨に反する」と指摘する。
政府は支援対象地域を決めていない。いや、決めようとしない。ここがミソだ。支援法で定める支援事業の対象となり、実行しなければ、法律と矛盾することになる。そうならないためにも支援対象地域を決めないのだろうか。
原告団は提訴後、東京地裁内で開いた記者会見で「支援対象地域の設定を急ぐよう」口々に求めた。
原告の一人、野口時子さん(主婦・48歳)は事故当時も現在も郡山市に住む。
「避難しようと思ったが、事故が起きた時、小学校6年生だった娘が『友だちと一緒に卒業したい』と言ったため、郡山に残った。そのまま今に至っている。娘は今、中学2年。高校受験を機に避難、移住したい。それには支援法が決まらないと困る」。
野口さんは切羽詰まったようすで語った。支援法の実現を求める理由としては、経済的な問題もさることながら「継続的な健康診断も受けさせたいから」。
「原発事故子ども・被災者支援法」をめぐっては、復興庁幹部のツイッターから、政府の真意が漏れた。
「左翼のクソども・・・」で一躍有名になった水野靖久参事官は、支援法が基本方針さえ決まらない状態であることについて、「白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が同意」とツイートしていたのである。
福田弁護士は福島住民の怒りを代弁するかのように話す――「基本方針を先送りするということは決まっていた。自分たち(政府役人)はやる気がないということが明らかになった。復興庁がやっていることは正しいのか? 裁判の場で明らかにしていかなくてはならないと思い、提訴に踏み切った」。
《文・田中龍作 / 諏訪都》
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※ 原発事故子ども・被災者支援法
正式名称は「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」