柏崎刈羽原発の再稼働を急ぐ東電の廣瀬直己社長がきょう新潟県を訪れ、泉田裕彦知事と面談した。廣瀬社長はベントフィルター設置の事前了解(※)を求めた。再稼働の前提となる新安全基準を満たすためである。
「東京電力という会社はお金と安全のどちらを大切にする会社ですか?」泉田知事はのっけから廣瀬社長の顔面にストレートパンチを浴びせた。
「安全を大切にして参りたいと思います」。苦しそうに答える廣瀬社長の声は、くぐもっていた。
泉田知事は続けた。「(遮水壁は)1千億円かかるから先送りするという判断をされたと思う。汚染水の問題はチェルノブイリ(事故)でも旧ソ連が最優先した課題でした。ヤツコ前NRC委員長からも『なぜやって来なかったんだ?』と驚きの声が上がる状態です」。
廣瀬社長はシドロモドロとなった。最前列に陣取っていた筆者は、廣瀬社長が目を白黒させているのが見てとれた。
「会社的に極めてひどい状況」「現場の人間がコストダウンを気にして必要なことができないのでは、安全を優先した会社とは言えないと思う」。追い込まれたらやっと非を認める。廣瀬社長の答弁はいかにも東電らしかった。
通産官僚だった泉田知事は原発の専門知識にも長けており、次々と突っ込んだ質問をした。
「(ベントフィルター設置後)事故が起きた場合の線量は?」
「住民避難が終わっていない段階でベントしなければならなくなったら?」
「メルトダウンの発表が遅れたのはなぜか?なぜウソをついたのか背景を明らかにしないとまた同じことを繰り返す」……
畳み掛けてくる泉田知事の前に廣瀬社長はアップアップの状態だった。早口になり声は上ずった。
泉田知事はそれでも極め付けの質問を投げかけた。「(事故)当時と今は何が変わったんでしょうか?」。
「東京電力の常識が外の非常識と言われることのないように社外の目線で対応していく」。廣瀬社長は、中味のない通りいっぺんの答えをするのが関の山だった。
「(回答を)急ぎますか?」別れ際知事は尋ねた。
「ぜひ…」廣瀬社長のノドから答えが飛び出た。
「東電の安全対策に納得はいきましたか?」筆者の質問に泉田知事は「これから検討します」と答えるにとどめた。
経営破たんを避けたい東電は、世界最大級の発電能力を持つ柏崎刈羽原発の再稼働が至上命題となっている。東電は今秋中にも原子力規制庁に再稼働に向けた適合申請をするものと見られている。
7月2日、柏崎刈羽原発の再稼働を目指す東電が、新潟県の了解もなく「安全審査申請をしたい」と表明した。泉田知事は東電への不信感を露わにし、3日後に持たれた廣瀬社長との面談は物別れに終わっていた。
前回、泉田知事は「事前了解の要望書」を受け取りもしなかった。だが今回、東電は受け取らせることには成功したようだ。
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(※)
東電は新潟県と「原子力安全協定」を結んでおり、設備の変更などがある場合は新潟県の了解を得なければならない(協定第3条)。新安全基準を満たすためのベントフィルターの設置がこれにあたる。