行政はいつから追い剥ぎになり下がったのだろうか。渋谷区は24日、公園整備を名目に宮下公園から野宿者(ホームレス)を排除する行政代執行を行う予定だ。
宮下公園には40人近くの野宿者が暮らしていたが、そのうち30人は渋谷区公園課によってすでに“転居”させられている。
残る野宿者を追い出した後はスポーツメーカー 「ナイキ」が、スケートボード場などの遊技施設を建設する。遊技場収入の何割かが渋谷区に入る仕組みだ。自治体が公共施設を有効活用して収益を上げるのは、ひとつの方策である。財政難の折、役所にしては気の利いたアイデアだ。
だが、ちょっと待ってほしい。これが成功例となって他の自治体が真似るようになったら、あちこちの公園から野宿者が追い出されるようになりはしないだろうか。小泉改革と不況のダブルパンチにより財政難にあえぐ自治体はノドから手が出るほどカネが欲しいはずだ。
筆者は野宿者をこの10年間取材してきた。路上に弾き出された原因の大半はカネ絡みだ。そのほとんどは借金の取立てから逃れてきた人たちだ。ところが労働者を部品同然に扱う「派遣」が定着するようになってからは、新たな「層」が加わるようになった。
ついこの間まで非正規労働者だった人々である。不況で職を失う→「派遣労働者」に転じるが、いとも簡単に切られる→アパートの家賃やネットカフェの宿泊費を払えなくなる→路上に弾き出される。30代のホームレス(野宿者)が増えているのは、こうした事情からだ。
ホームレスになりたての頃はダンボールを敷いてビルの地下などに寝る。公園で青テントを張るまでには普通2年も3年もかかる。大変な苦労がいるのだ。ある野宿者が「青テントに住めるようになった時は、これで雨に打たれずに済むと思いホッとした」と話してくれたことがある。
景気がまともだった頃、野宿者は数えるほどしかいなかった。現在、2万人とも3万人とも言われる(内閣府参与の湯浅誠氏によれば「実際の野宿者は厚労省の発表より多い」)野宿者は明らかに不況の犠牲者だ。
公園はそんな彼らがやっとの思いでたどり着いたオアシスである。そこから追い出すのが行政本来の仕事ではないはずだ。