遅々として進まない東京電力の原発事故補償。なかでも「自主的避難等対象区域」の外の住民への補償は最も後回しにされてきた。
だが原子力損害賠償紛争解決センターの仲介により、対象区域外にあたる白河市から札幌市に自主避難した一家が4月5日、対象区域内からの避難者と同じ水準の和解を勝ち取った。極めて稀なケースだ。一家の母親が17日、司法記者クラブで記者会見した。
一家は父親、母親、子ども2人(事故当時、中1と小5)。父親の仕事の都合で母子避難となった。一家が損害賠償を申し立てたのは2011年12月。請求金額は母親の離職による減収や交通費など約1,100万円だった。1年4ヵ月の法廷外闘争を経て和解した金額は174万7,190円。申し立てをしなければ、東電が一家に支払った損害賠償は40万円だった。
申し立てても東電からはナシのつぶてだった。11ヵ月目にして東電からやっと届いた回答は『あなた達の避難には、合理性がない』。
「悲しい怒りで一杯だった」。母親は悔しそうに当時を振り返った。
~補償金減らしの線引きを打破~
原子力史上最悪の原発事故が起きているのにもかかわらず、政府は避難区域を狭く指定し、しかも細かく線引きしてきた。補償をできるだけ少なくするためだ。
事故後、白河市にも行政の広報車が回ってきて「安全です、心配いりません」と吹聴した。政府と東電は、避難指定区域から外した地域の住民は外に出したくなかったのだ。今だにその姿勢は変わらない。ばかりか避難区域を解除して住民を返そうとしている。
白河市に隣接する浅川町や石川町は「自主的避難等対象区域」圏内だ。白河市を脱出する2011年7月、母親が自宅の周りの線量を測ったところ、0・68μSv/hもあった。放射線管理区域となる数値だ。白河市はそれでも対象区域外なのである。線引きは非情という他ない。
一家の代理人である福田健治弁護士は「(線引きは)政府がまさに行ってきたよくない一面だ。その線引きを打破することができた」と話す。福田弁護士は「圏外被害者からの賠償請求が増えていくのではないか」とも語った。
福島の事情に詳しいジャーナリストによれば、白河の人たちは『損害賠償を申し立ててもどうせ取れないんだから』とあきらめているという。今回、和解を勝ち取った意義は大きい。
「あの場所に実際に汚染があったということ。怖くても我慢している人や怖くて逃げ出したにもかかわらず、かかった費用を請求できずにいる人に『あなた達の避難は正当だったんだよ』ということが証明できた」。母親は少し頬を緩ませて話した。