原発事故により住み慣れた地を離れざるを得なかった福島の住民らが、東電と国を相手どり「元の状態に戻してほしい」と原状回復を求める裁判を福島地裁に起こす。提訴は3月11日だ。
原告は350人(2月8日現在)。うち約300人は福島県出身者で、さらにうち200人が福島県在住者(20キロ圏内、30キロ圏内から圏外に避難)。
訴状(案)によると、東電と国は空間線量が毎時0・04マイクロシーベルト(自然の大地からの放射線量)以下になるまで住民一人当たりにつき毎月5万円を払えなどとしている。
訴訟を貫くのは損害賠償ではなく原状回復だ。原告団の大半を占めるのは今なお福島県内に住む人たちである。原告団事務局長の馬奈木厳太郎弁護士は「現地にいる人達の被害を東電と国に認めさせることにより、自主避難の正当性を証明したい」と話す。
原告団はきょう午後、都内で記者会見を開いた。浪江町から福島市に避難している紺野重秋さん(74歳)は次のように話した―
「事故前の放射線量に戻し生業が成り立つ町にして返してほしい。放射能があってもなくても政府は(人々を)地域に帰そうとしている。とんでもねえ。放射能と人間は共存できねえ。原発を一日も早くなくして、原発ゼロの地域を作ってほしい」。
事故当時南相馬市に住んでいた金子正子さん(60歳)は、80代の夫の兄夫婦を連れて相馬市に避難した。「原発を後世に残したくない。子や孫を連れて帰って来れない故郷になった。お金で済まされる問題ではない。子や孫が安心して暮らせるようにして返してほしい」。金子さんは切々と訴えた。
福島に隣接する茨城県から子供を連れて沖縄に避難した母親もいる。久保田美奈穂さん(34歳)だ。最近二人(8歳と2歳)の子供が甲状腺検査を受けたところ異常が見つかった。
「なんで東電が起こした事故で普通の人達が苦しまなければならないのか。言いたいことは山ほどある。敵は大きいが、皆で立ち向かって変えてゆきたい」。久保田さんは幾度も声を詰まらせた。
原子力損害賠償紛争審査会の判定は遅々として進まず、被災住民の困窮は深まる一方である。それでいて政府は住民をできるだけ早く帰還させて補償を打ち切る構えだ。
故郷を事故前の姿に戻す原状回復こそ、住民の最も根源的な訴えではないだろうか。
弁護団によれば、森などが近くにあり除染が困難な地域については別立てで訴訟を起こす方針だ。
《文・田中龍作 / 諏訪都》