北海道南端の函館。晴れた日には原発建設が再開された大間(青森県)が肉眼で見える。原発から函館の海岸までは直線距離にして20km足らず。ひと度事故が起きれば壊滅的な被害を受ける。
それでも立地自治体ではないため、政府の交付金も電力会社からの補償金も援助金も出ない。津軽海峡を挟んで雇用が生まれるわけでもない。原発建設の負の側面ばかりなのが函館だ。市議会は9月、全会一致で「大間原発建設の永久凍結」を求める決議を採択した。
ここに「卒原発」「TPP加盟反対」「反消費税増税」を掲げて立候補したのが北出美翔氏(きたで みか=未来の党)だ。弱冠26歳。小沢一郎氏の元秘書である。
北出候補の街宣活動は毎朝8時、JR函館駅前の演説から始まる。北海道の朝、風は身を切るように冷たい。雪で凍結した歩道を有権者が駅に向かって小走りに行く。
「野田内閣は30年代までに原発をゼロにすると言いながら閣議決定もせず、この道南の大間に原発を建設しようとしています。原発をゼロにできないのではなく、ゼロにできるように実行しなければなりません。自然エネルギーへの転換で雇用を産み出し、経済を活性化します」。北出候補は民主党の“口だけ脱原発”を批判した。
「北出美翔は既存の枠組みに捉われることなく新しい道南と日本を作っていきます。現政権ではいけません。古い政治に戻してもいけません」。旧体制の打破は師匠の小沢氏ゆずりだ。北出候補は良く通るハイトーンで有権者に訴えた。
津軽海峡にのぞむ戸井(市町村合併で函館市に)の海では漁師たちが真ダコ漁に追われていた。各集落によく整備された漁港があり、護岸もほぼ完ぺき。長年続いた自民党政権下で建設されたものだ。
大間原発で福島のような事故が起きれば、漁は半永久的にできなくなり、住む所さえ追われる。選挙と原発について漁師町で聴いた―
「ここは北海道で(大間に)一番近(ちけ)えからな。原発は考慮するけど、漁のことや港のことをやってくれねえといけねえからな。ここらは自民党が強いからな。原発は悩ましいよ」。(漁師・70代)
「(大間原発を)今さら騒いでどうするの?(とはいえ建設中止を)諦めないよ。諦めちゃならないからね。漁師でメシ食わなきゃいけないから。選挙は行くよ。どんな選挙でも必ず行ってるから」。こう答えた漁師の妻(60代)は、どの政党に入れるのかは最後まで明かさなかった。
「(大間原発を)考慮すねえ訳にはなるめえ。国の政策が悪いんだ」。商店主(60代男性)はこう言いながら、「自民党員なので自民党に投票する」と答えた。
半世紀余りに渡って地元に恩恵をもたらし続けた自民党政権を覆したのは民主党だった。その民主党は失政に失政を重ね、国民の信頼を失った。
「(かといって)自民党に政権を戻してはならない」。各地の街頭インタビューで決まり文句のように聞く有権者のフレーズだ。今どき固定電話で聞くマスコミの世論調査が示すような「自民単独過半数」とならないことは確かなようだ。