原発事故で被曝した福島の子どもたちの甲状腺検査は遅々として進まない。検査を受けても結果はなかなか明らかにしてもらえない。業を煮やす父母や環境団体が13日、甲状腺検査の実務を仕切る福島県立医大を訪ね、改善を要求した。
医大側は放射線医学健康管理センターの松井史郎特命教授が対応した。松井教授の冒頭の言葉が事態を象徴していた――
「何よりも長期間にわたって検査を受け続けることが大事。大学という研究機関で世界に証明することが必要…(後略)」。
医大側のこうした見解をめぐっては「データ欲しさ」との穿った見方もある。環境団体の男性は、山下俊一・副学長が日本疫学会に提出した最新論文を手に次のように追及した。「論文を読むと山下副学長は県民を被験者と見ている。モルモットではないか…」。交渉に出席した父母の間からも「モルモットだ」との声が続けざまに上がった。
甲状腺検査を受けるには保護者が同意書に署名しなければならない。同意書には「データは福島医大が保管することに同意する。これを理解した上で甲状腺検査を受ける」とある。甲状腺検査を受ける条件として検体を福島医大に提供する、ということである。
医大側は「条件ではない」説明するが、親たちは「条件としか読めない」と受け止めている。この日の交渉でも母親たちから「同意書はやめてほしい」の意見が出た。
松井教授が「同意書があるから検査結果についての数字の公開ができる。山下(俊一)先生は医師ですから人の命を救いたいんです」と答えると、あちこちから「そうは思えない」の声が飛び交った。
検査結果の情報開示についても父母らから厳しい要求が出た。自分の子供の検査結果を知るのに県に情報開示請求を出さなければならないのである。旧ソ連並みの秘密主義だ。
ある親は「戸籍謄本を添えて出さなければならない。そうまでしても書類に不備があれば突き返される」と情けなさそうに話した。やっとこさ出てきても、超音波測定のエコー画像は、モノクロのコピーだ。
「開示請求を簡素化してほしい」「エコー画像はカラーの生データで頂きたい」と父母らは要求した。松井教授は「県と検討中」と答えるに留まった。
この日の交渉を取材していて、我が子の健康に気を揉む親と医大側の意識のズレに唖然とすることがあった―
甲状腺検査の結果、結節(しこり)が5ミリ以下、嚢胞(のうほう)が20ミリ以下の子供は、再検査を受けるのが2年後となる。このカテゴリーの子供たちは全体の43%を占める。親は気が気でない。一日も早く再検査を願うのが世の親である。
「2年後の再検査は遅い、もっと早くしてほしい」と詰め寄る母親に松井教授は逆質問したのである。「2年で早期発見できる。2年が遅いという根拠は何ですか?」と。開き直りとしか言いようがなかった。
母親は血相を変えて答えた。「普通の病院でポリープが見つかったら、2年後に来て下さい、とは言いませんよね。せめて3か月か半年後に診てもらえるようにして下さい」。
ある父親は娘(17歳)を北海道の病院で診てもらったところ、嚢胞の中にしこりが見つかった。福島での検査結果はこれよりも軽度だった。北海道の病院からは「1年後に来て下さい」と言われた。父親は「(福島の検査は)信用できない」と首をかしげる。
信頼できず、あげくに再検査は遅い。原発事故直後、「100ミリシーベルトまでだったら浴びても大丈夫」と言った山下俊一センセイ率いる福島県立医大は、福島の子供たちをどうしようと言うのだろうか。
《文・田中龍作 / 諏訪都》
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