金曜恒例の再稼働抗議集会で一躍“名所”となった首相官邸前。他の曜日も抗議行動が行われているのをご存じだろうか。
火曜日はTPP、水曜日は貧困、木曜日はACTAに対する抗議となっている。いずれも庶民を悩ます重要なテーマだ。
「金曜日も来ているが、火曜日も来なくちゃならないので大変だ。これもすべて政府のせいだ。間接民主主義が機能していないから、直訴するしかないんだ」都内在住の男性(30代・フリーライター)は語気を強めた。
29日(火)の集会には、約200人が集まりそれぞれ思いの丈をぶつけた。北海道から来た農家の男性のアピールは、鬼気迫るものがあった。「このTPPだけは何としても阻止しなければいけない。タマネギの収穫で忙しい中だが、どうしても来たかった。(中略)メキシコの様になる訳にはいかない。今、日本に必要なのは自給率を高めることだ!」
メキシコでは、TPPと同じように農産物関税を極端に低くして締結したNAFTA(北米自由貿易協定)により、農家が主食のトウモロコシの生産を手放すことになり、90%近くが失業に追い込まれたのである。
TPPは反対世論が強いこともあって水面下で進められている。いつ事実上の参加交渉が始まるか分からない。定見のない民主党政権のことだから、消費税増税のように、TPPも財界と官僚ペースで一気に進めてしまう気配が十分ある。
「すでに、役人がTPPへの参加依頼の文書を準備しているとの情報があり、その文書がアメリカに渡れば事実上、交渉参加となる。TPPへの本参加は、国会で批准される必要があるが、一度交渉のテーブルに着いてしまえば、もう後戻りは出来ない可能性が高い」。火曜集会主催者の安部芳裕さん(社会活動家)は、危機感を強めた。
TPPは反原発をも脅かすという――
TPPにはISD(Investor State Dispute)条項なる劇薬が含まれているのだが、野田総理は知らなかったとされ(※)、お笑い草となっている。ISD条項とは、参入先の国家の政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合、参入先の相手国を訴える事ができる条項である。
訴えは「国際投資紛争仲介センター」に持ち込まれる。同センターは米国が実質支配する世界銀行傘下にあるため、米企業が敗訴したケースはない。言い方を変えれば米企業に訴えられたら負けるのだ。TPPが不平等条約と言われるゆえんだ。
例えば、日本で脱原発を決めたとする。ところが今後、原発建設で利益を上げるはずだったGEなどが不利益を被ったとして、日本政府を「国際投資紛争解決センター」に訴える事もできる。実際、他国では規制を撤廃せざるを得なくなったケースもある。
「原発に反対する人は、TPPも反対しないといけない。国際取引の枠の中に、原発がある限り、外圧でやられてしまう」。都内在住の火炎瓶テツ(ハンドルネーム)さんは悲壮な表情で語った。
来月8日からウラジオストックで始まるAPECを前にTPPに反対する国会議員や業界団体などが30日、都内で「TPP参加阻止集会」を開いた。国会議員は100人余り。自民党から共産党までと幅広い。TPPがあらゆる産業に影響を及ぼすことを示している。
議員らは解散総選挙も近いことから支援団体のために頑張っていることをアピールしようと力が入っていた。
来月下旬に代表選を控える野田首相が、党内で反発の強いTPPへの参加表明を早期に行うのは困難との見方が支配的だ。だが政府内には「TPP参加表明は交渉を優位に進めるためにも早い方がいい」との積極論があり、予断を許さない。官邸前の「火曜集会」は当分続きそうである。
◇
※昨年11月11日、参議院予算委員会で佐藤ゆかり議員(自民)の追及に、野田総理は「ISD条項に関しては寡聞にして詳しく知らなかった」と答弁。