「何万人、何十万人が集まっている現象が、この場を作らせた。こういう集まりは日本の近代史上初めて。(国会議員が)組織ではなく民衆の中から出てきた人と会うのは初めて…」。司会の小熊英二・慶応大学教授(歴史家)が冒頭の挨拶でいみじくも語った。
金曜夕恒例となった原発再稼働に抗議する官邸前集会。組織動員もなく脱原発の一点において集まって来る国民の声に政治家も耳を傾けざるを得なくなったのである。
主催者の「首都圏反原発連合」と国会議員が31日、原発政策をめぐって国会内で意見交換した。政治家側は脱原発を選挙目当てで標榜する民主党議員と、脱原発に向けてずっと動いてきた「原発ゼロの会」の超党派議員、計11人。首都圏反原発連合(反原連)側も11人が出席した。
反原連のミサオ・レッドウルフさん(デザイナー)も筆者の取材に司会の小熊教授と同様、数十万人の声が持つ意味を強調した。「官邸前の大行動があったから、この場ができた」。
政治が民の声に耳を傾けないから、人々は直接行動に出たのである。それも組織ではない個人、個人の集まりが大きなうねりとなった。労働組合頼みの選挙に浸りきった民主党議員は、この現象を理解できていないようだった。
平岡秀夫・元法務相の言葉がそれを象徴していた。「皆さんが組織代表委任を受ければ、組織対組織の代表として会うのは可能。(野田首相に)会いたいのであれば、そういう方法を取ったらどうか。それが日本社会の仕組み」。
平岡元法相は、●●労組の代表だったら聞くよ、と言わんばかりだった。民主党が国民から遊離してフワフワとした政治を続けていることをよく表している。
元法相の発言に愕然としたのは筆者ばかりではなかった。反原連のノイホイ氏(ハンドルネーム・会社員)が静かな怒りを込めながら語った。
「今日、ここに座っていることに絶望している。組織ありきの話が出てきたのは悲しい。我々が官邸前に集まっているのは、絶望に近い悲しみがあるからだ」。ノイホイ氏のコメントに6人の民主党議員たちは一様に鼻白んだ。
小澤弘邦さん(反原連・自営業)はさらに厳しく指摘した。「Ustの皆と(政治家は)ズレている。原子力規制委員会の人事に対して国民は怒っている。Ustが爆発しそうなんだけど、何故怒っているのか、(政治家は)分かっているのか?16万人が避難している中、たった4人の閣僚で再稼働を決めた…(中略)…危機感の共有ができていない」。
肝心の野田佳彦首相は事態をどのように受け止めているのか、菅直人前首相が“解説”した。この意見交換会が開かれることを前首相は現首相に電話で知らせたという。
「国民の怒りの対象が野田さんになっていることを知っていますか?」
「えっ!そんなことになっているの?」
菅氏が野田首相の反応を正直に伝えたことは評価に値するが、仕事を犠牲にしてまで脱原発に取り組んでいる反原連のメンバーにとって、民主党政権のお気楽さは腹に据えかねたのだろう。
平野太一さん(反原連)のアッパーカットが炸裂した。「原子力規制委員会の人事に賛同するのか、しないのか。一人ひとり答えて下さい」。
民主党議員たちは凍りついた。司会者が「それは止めた方がいい」と制止しようとすると、会場からヤジが飛んだ。「どうして答えられないんだ」「答えてもらわないと民主党の原発隠しが明らかにならない」。
ヤジに後押しされる格好で、民主党議員たちは渋々答えた。6人中、4人は「党内の議論を見極めたうえで」とかわした。「同意できない」と答えたのは、わずか2人だった。これが政権党の実態だ。原発が再稼働する訳である。
井手実(反原連・自営業)さんが涙ながらに声を絞り出した。「官邸前の大集会を誰がコーディネートしているのか? それは政府です。政府が聞いてくれないので、どんどん膨れあがっている」。
《文・田中龍作 / 諏訪京》
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読者の皆様。今月は原発再稼働で大飯へ、オスプレイ搬入で岩国へと現地取材に出向いたため、出費がかさみました。『田中龍作ジャーナル』は読者のご支援により維持されています。