交通機関や工場などが大きな事故を起こすと、すかさず捜査が入り、最高責任者が刑事責任を問われる。ところが原発事故を起こし16万人もの避難者を出した東京電力に司直の手が伸びないのは誰が考えてもおかしい。
「泣き寝入りはしない」。地元福島の被害者たちが国家権力をも支配下に置く原子力村の刑事責任を問うために立ち上がった。
福島第一原発が爆発事故を起こしたのは、東電や政府が安全管理を怠ったためだとして、被曝した福島の住民ら1324人(子供含む)が11日、東電の旧・現経営陣、政府の役人などを業務上過失致死傷の罪で福島地方検察庁に告訴・告発した。
刑事事件の被告となったのは、東電の勝俣恒久会長・清水正孝社長(当時)、原子力安全保安院の寺坂信昭院長(当時)、原子力安全委員会の班目春樹委員長、原子力委員会の近藤駿介委員長ら計33人。
33人の中には、SPEEDIにより放射能汚染が広がっていることが分かっているにもかかわらず子供を避難させなかった文科省官僚や「子供が外で遊んでも大丈夫」との無責任な主張をし続けた山下俊一・福島県放射線健康リスク管理アドバイザーなども含まれている。日本中の悪役が一堂に会した、といってもよいだろう。
電力会社のお先棒を担いで「原発安全神話」を国民に30年余りに渡って刷り込み続けてきたマスコミは告訴されないのだろうか?不思議でならない。
告訴団の河合弘之・主任弁護士は「原子力村に占めるメディアの役割は大きい」としながらも「焦点が広がり過ぎる」と告訴しなかった理由を説明した。
告訴・告発状によると被告訴人らは、地震頻発国の日本で超危険物である原子力発電所の運営にあたって、炉心損傷や溶融などの重大事故を予防し、事故が起きた場合に被害を最小限度に食い止める義務があった。にもかかわらず安全注意義務を怠り、多数の福島県民を被曝させた。被害者の中には高線量の放射能を大量に浴びて死亡した50人(氏名不詳)も含まれている。
河合弁護士は刑事告訴の意義を次のように語る――
「(東電経営陣の刑事責任が問われないのは)第2次世界大戦後に東條英機が残ったまま新しい国造りをしようと言うようなもの。ところが原子力村は奇妙キテレツ。東電は誰も責任を取って辞めていない。これは社会的に許されない」。
告訴団長の武藤類子さん(三春町出身)の言葉は、福島住民の思いを代弁しているようだった――
「世の中には一年経って沈静化した、との見方がある。だが私たちのわだかまりは大きくなる一方です。何で捜査しないの?と。私たちの困難は言葉で言い表せない。(東電と政府の)刑事責任が問われない限り福島の復興はない」。
因果関係の医学的立証など難しい面はあるが、子供の下痢や大人の心筋梗塞など原発事故由来と見られる疾病が多発していることはデータが示している。これで東電経営陣や政府の役人が起訴されなければ、日本は法治国家ではなくなる。
《文・田中龍作/諏訪京》
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