【カブール発】 パキスタン、アフガニスタン国境にまたがるトライバルエリア(部族地帯)は、中央政府のコントロールが効かないことで有名だ。1970年代末から80年代にかけては、侵攻してきたソ連軍に立ち向かうムジャヒディーンがここから続々送り込まれた。今は米軍と戦うタリバーンやアルカイーダの出撃拠点となっている。
「本家トライバルエリア」と同じような部族地帯が首都カブールにもある。カブールの中心部から45kmほど西のパラチ・バグマン村(人口18万人)だ。高原地帯にあり、目抜き通りの並木は黄金色に染まっていた。並木道を羊飼いが百頭近い羊と共に行く光景は牧歌的だ。
シャッターを押そうとすると、通訳が「撮影しちゃダメだ。ここはデインジャラスな人たちばかりだから」と顔をこわばらせた。「少年までもがここはミリシャ(民兵)なんだ」。
政府の警察権は、村の入り口にあたるほんのわずかのエリアしか及ばない。残りの大部分の治安を守るのは民兵だ。民兵といっても、部隊を組んで他の部族や政府軍と戦闘ばかりしているわけではない。戦時中でない間は自治警察だ。カラシニコフ自動小銃が各家庭にあるという。
村の入り口付近はパシュトー族、残りの大部分の地域はタジク族が暮らす。よそ者が侵入してきて、秩序を乱すようなことをすれば成敗される。
筆者が訪れた時は、村人がモスクの修理にあたっていた。モスクは20数年前、ソ連軍に爆撃され大きく破損したままだった。村は20年かけてお金を貯め、最近になってやっと修理を始めた。
写真を撮っていたら修理工事を手伝っていた少年が、鋭い声をあげながら筆者に放水してきた。ダリ語なので意味はわからないが、声色と表情からして「撮るな」とでも言っているのだろう。
モスク前の喫茶店では、4~5人の男たちが談笑にふけっていた。「こっちに来てお茶を飲んでゆけ」というので従った。客人を厚く遇するのはムスリムの流儀だ。地方やカブール郊外で食事中の地元民と目が合ったりすると、決まって「こっちにきて食べていけ」となる。「京のぶぶ漬け」ではない。丁寧に断ったら肩をつかまれて「いいから食べていけ!」と力づくで席につかされたことがある。
「ビン・ラディンを引き渡さなければ空爆するぞ」と米国が恫喝したにもかかわらずタリバーン政権は、ビン・ラディンをかくまい続けた。理由として上記のムスリム精神からだ、としたり顔で話す評論家もいた。
「チャイ」という日本の緑茶によく似たお茶が出てきた。話は「カルザイ政権」「タリバーン」「米・露軍」に及んだ。
カルザイ大統領をどう思うか?
村人「アメリカの従者なのでノーグッドだ」
タリバーンが復活しているが?
村人「タリバーンの(首都)包囲網は狭まっているよ」。村人はこう言いながら両手で作ったワッカを小さくしていった。
確かにカブール市内をNATOの装甲車が猛スピードで走る光景は珍しくない。地方には大概NATOかISAFの基地があるから、カブール近郊でのオペレーションに出動しているのだろう。
タリバーンとカルザイ政権がもし再び戦争になったら、どちらを支持するか?
村人「イスラム法を守る方を支持する」。
キリスト教文化の欧米に支えられたカルザイ政権と頑なにイスラム原理主義を貫くタリバーンのどちらがイスラム法に則っているか。改めていうまでもない。タジク族の村人たちは、タリバーンと同じパシュトー族とは仲が悪い。それでもカルザイ政権よりタリバーンを支持する、というのだ。
カルザイ政権はこうした元ムジャヒディーン(聖戦士)たちを国軍兵士として採用している。アフガン国軍をトレーニングしているのは米軍だ。だが米軍は、いつまた自分たちを襲ってくるか分からないムジャヒディーンを警戒している。
アフガニスタン国軍に使用させているのは、ピックアップ型トラックなのだ。荷台にロケットランチャーや機関銃を積んだ、いささか“原始的”な代物だ。装甲車など近代的な兵器は持たせてもらえない。
かつて米軍は、ソ連軍に立ち向かうムジャヒディーンにスティンガーミサイルなど近代的な兵器を供与してきた。アフガニスタン戦争(2001年)では、このスティンガーミサイルが米軍を苦しめた。痛い教訓は今なお生きている。
イスラムを冒涜する者に対しては死を賭して戦うムジャヒディーン。彼らは多産系だ。取材車のドライバーは「兄の妻は子供を25人も産んだ」と屈託なく話す。たとえ米軍が射殺しても次から次へとムジャヒディーン予備軍は誕生してくる。米軍は底なし沼にはまったともいえよう。
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