【カブール発】 アフガニスタンは南・東にいくほどタリバーンと同じパシュトゥー民族が多くなる。東の都ジャララバードがあるナンガラハール州もタリバーンが活動を活発化させている地域だ。
資金源のケシ栽培が盛んだ。中央政府の警察がいることはいるが、タリバーン支配下ゆえ十分に機能していない。米軍のタリバーン掃討作戦は当然のことながら激しさを増す。
同州で支援活動を続ける「ペシャワールの会」の中村哲医師が米軍ヘリに誤爆された(辛くも難は逃れた)ほど、厳しい掃討作戦が続いている。
首都カブールとジャララバードを結ぶ街道は、かつてはラフロードだった。前回(2002年)の取材で通った際は、尻が拷問にあっているほど痛かった。今ではすっかり舗装されている。
ジャララバードに向けて、取材車は街道をひた走っていた。どの地点だっただろうか。1台のランドクルーザーが猛烈なスピードで抜き去って行った。長いあごひげ、大きめのターバン。「タリバーンだ」。通訳は言った。
ピカピカのランドクルーザーは新車だ。政府高官だって簡単に買えない。資金力豊かなタリバーンの車と見るのは妥当かもしれない。
街道のちょうど中間地点に、「ある男」の墓はあった。墓石にはタリバーンの旗が掲げられ、小さなモスク(礼拝所)が寄り添うように建っている。モスクに入ると木箱が目についた。ムスリムの聖典コーランが、大事にしまわれていた。
「ある男」とはムラ・アミン。タリバーンの大幹部である。ムラ・ボルジャンの名で他民族からも広く尊敬される人物だ。彼の死にまつわる話は以下のように伝えられている―
米国がアフガニスタンを軍事攻撃し、その後も駐留を続けるための2つの計画があった。計画とは、1)米国がアルカイーダに多額の金を渡し、ニューヨークのワールドトレードセンタービルにジャンボジェット機を突っ込ませる。2)アフガニスタンが米国の支配下に置かれることに反対するマスード将軍を、アルカイーダに暗殺させる。
パキスタンのムシャラフ大統領と米国は、タリバーンの大幹部でアルカイーダにも影響力を持つムラ・ボルジャンに上記2計画への協力を要請する。だがボルジャンは断る。「(ムスリムの)兄弟たちがこれ以上犠牲になるのはこらえきれない」。
祖国にミサイルや爆弾が打ち込まれ、その後も宗教、民族が全く異なる米国が支配することになる。「ワールドトレードセンタービル攻撃」(「9・11テロ」)が、その口実に使われることをボルジャンは見抜いていた。
ムシャラフ大統領は、マスード将軍の暗殺にこだわった。タリバーンはマスード派と敵対関係にあったが、ボルジャンはマスード将軍暗殺への加担も固辞した。「ムスリム同士で殺しあうことはできない」と言って。
アフガニスタンで唯一カリスマ的なリーダーシップを持つマスードを亡き者にすれば、アフガニスタンは思いのままになる。ムシャラフ大統領はそう考えていた。
中央アジアの天然ガス・パイプラインをアフガニスタン経由でパキスタンまで引く。パキスタンにはパイプラインの通過利権が転がり込む。天然ガスを買う米メジャーはユノカル社。カルザイ大統領がアメリカ在住時代、取締役を務めていた会社だ。アメリカとムシャラフ大統領の目論みは見事なまでに一致していた。
目論見をかなえるためにもアフガニスタンに傀儡政権を樹立する必要があった。国民的人気が高く愛国心の塊のようなマスード将軍は、邪魔な存在だった。「ワールドトレードセンタービル攻撃計画」と「マスード暗殺計画」を知り、それらに反対するボルジャンも生かしてはおけない人物となった。
知りすぎた男、ボルジャンは2000年末、何者かに背後から撃たれ落命した。米国とパキスタンの諜報機関が関与しているとの見方が支配的だ。ボルジャンが殺されたおよそ9ヶ月後、「9・11テロ」は起き、世界が震撼することとなる。
「9・11テロ」をめぐっては陰謀説をはじめ諸説ある。一体どれが正しいのか、真相をこの目と耳で突き当てることは容易ではない。アメリカとパキスタンの諜報機関が絡む事件の「裏を取る」のは至難のわざだ。
ただ、ボルジャンが危惧したようにアフガニスタンは米国の傀儡となり、ムスリム同士で殺しあう事態(国軍VSタリバーン)となっていることだけは確かなようだ。
ムラ・ボルジャンの墓が路肩に建つジャラバード街道を、きょうも米軍の戦闘用車両が我がもの顔で走る。