霞が関の経産省前が住所変更された。新しい住所は「東京都フクシマ村 未来を孕む女たちの とつきとおかのテントひろば」。十月十日とは胎児が母親のお腹にいる期間だ。この間、経産省前に座り込むのである。
元祖テントは男性が中心だが、こちらは“女性テント”だ。「原発廃止」を求める女性たちが運営する。
蛮勇をふるって花園に足を踏み入れると、楽しそうな話し声が耳に飛び込んできた。女性たちはカセットコンロで沸かした茶を啜りながら、四方山話に花を咲かせている。食べ物の話から原発問題まで話題はつきない。原子力村の総本山である経産省と対峙しているという悲壮感はみじんもないのだ。
女性テント発起人の椎名千恵子さんと話して視野の広さに驚いた。右翼が来ても原発推進派が来ても受け入れる、という。意見や思想が違う相手とは「とことん話す」そうだ。実際、原発推進派の女性が訪ねてきたことがある。数時間にわたってディスカッションした。笑顔で帰っていったその女性は、また来た。筆者の取材中も来訪者が絶えなかった。
「今までのような戦い方じゃダメ。巨大な敵(原子力村のこと)を相手にしているんだから。どんどん繋がっていかなきゃ」。椎名さんの『脱原発闘争哲学』だ。
経産省の職員と警察官が力づくで“男性テント”を撤去しようとしたことがあった。その時、体を張って経産省職員と警察官の侵入を阻止したのは女性だった。「天皇陛下以外とは話をしない」と言って頑と撥ね除けたのだった。
筆者は体を張った女性に「天皇陛下の名前を持ち出したのはなぜ?」と尋ねた。女性は「天皇陛下の名前を出すとあの人たちは言うことを聞くから」と答えてくれた。原発を停めるためなら天皇陛下さえ持ち出すのである。戦い方が上手だ。
隣の“男性テント”には今も毎日のように経産省の職員が来て「違法ですから撤去して下さい」と催促する。だが女性テントには、経産省の職員や警察は一度も来ていない。彼らだって女性の胎内から生まれてきたのだ。「退去して下さい」とは言い辛いだろう。まして強制排除は難しい。
「原発事故で命を脅かされているので、命を育む期間座り込みを実行する」(椎名さん)。来年9月11日まで続く女性たちの闘争は、脱原発運動に新しい地平を切り拓きそうだ。
テントのメンバーで川柳作家のわかち愛さんは「革命の風、おなごから吹いてくる」と喝破した。