欧米が武器供与を止めたら、もっと恐ろしいことになる

キーウ市を護る最前線の砦。イルピンが落ちれば真っ先にロシア軍と対峙することになる。=2022年3月、キーウ 撮影:田中龍作=

 ナイーブな国会議員や識者が「欧米各国はウクライナへの武器供与を止めよ」「即時停戦を」と言い募る。ウクライナ国民の声を聴かずに。

 まず、武器供与をストップしたらどうなるかを話そう。

 ロシア軍が首都キーウの中心部まで20キロの地点まで迫っていた頃だった。キーウでは至る所にバリケードが築かれていた。戦車止めや塹壕である。中で生活できる本格的な物まであった。

 幹線道路上はそうした「砦」が数百メートルおきにあった。

 砦を守るのは領土防衛隊と市民である。初老のオッサンたちがカラシニコフAK47を手にし、「ロシア軍は一兵たりとも(キーウの)中に入れない」と言って口を真一文字に結んだ。

 街頭で会った15歳の少女兵に「ロシア軍が(キーウに)入ってきたらどうするか?」と尋ねると、微笑みながら「撃つ」と答えた。

軍事教練を受ける女性たち。ロシア軍が侵攻してきたら模型の銃は本物に代わる。=2022年2月5日・侵攻19日前、キーウ 撮影:田中龍作=

 1日8千食を提供する野戦食堂もあった。銃後の守りもしっかりしているのだ。田中は国民の士気の高さに舌を巻いた。

 ウクライナの人々はロシアが嫌いなのだ。ソ連時代には、秘密警察に見張られて自由もなく、スターリンに無謀な農業政策を押し付けられて400~700万人もが餓死したのだから。

 田中のフィクサー(通訳兼案内人)を務めてくれていた男性の祖父は、レーニンの悪口をいっただけで逮捕され極寒の地に流刑された。

 ソ連のくびきを逃れてまだ32年しか経っていない。親戚や友人がロシアにいて内情はいくらでも伝わってくる。スターリンがプーチンに、KGBがFSBに名前を変えただけ、ということをウクライナの人々は知り抜いているのである。

 人々は「核を落とされてもいい」「ロシア兵を追い出すまで戦う」と話す。

 欧米が武器供与を止めて、ウクライナ軍が降伏したとする。今度はウクライナ国民が銃を持って戦うことになる。

 ゼレンスキー政権が希望者に供与しているので、武器はふんだんにある。凄惨な市街戦が延々と続くことになる。

 親露政権の治安部隊から仲間が次々に射殺されても前に進んだマイダンの戦い(2014年)が、全土で繰り広げられるのである。

路面電車も戦車止めに。街中が要塞と化していた。=2022年3月、キーウ 撮影:田中龍作=

 誰もが頷きそうな即時停戦はどうだろうか。

 ブタペスト合意(1994年)というのがあった。英・仏・露・宇の間で交わされた覚え書きで「ウクライナが核を放棄すれば、安全を保障しますよ」とする内容だった。

 ウクライナは核を手放してしまった。その結果はどうなったか。あらためて言うまでもないだろう。

 ウクライナの人々は、二言目には「ロシアはウソをつく」という。近現代史が証明する事実である。

 即時停戦したら、ドネツク州、ルハンスク州、ザポリージャ州の一部、クリミア半島はロシアに奪取されたままとなる。

 プーチンはここを橋頭保に「ロシア系住民が迫害されている」などといった口実を付けてまたもや西に侵攻してくるだろう。

 現実を知らずに理想論ばかりを唱え、結果としてプーチンの呪文を唱える国会議員や言論人が跋扈する国、ニッポン。

 世界のお笑い草になっていることに早く気づいた方がいい。

1日8千食を提供する野戦食堂の台所。ジャガイモの甘酸っぱい香りが漂っていた。=2022年3月、キーウ 撮影:田中龍作=

  ~終わり~

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