「アラブ人に死を」と叫ぶベングビール国家治安相がナクバと呼ばれる民族浄化を企図しているエリアのひとつ、東エルサレム・シルワン地区-
ユダヤ教徒の聖地である嘆きの壁からは1㎞と離れていない。雨さえ降っていなければ肉眼で見える近さだ。
今からちょうど1か月前のことだった。狂信的宗教右派であるネタニヤフ新政権が発足して間もなくである。
イスラエル軍が重機を伴ってムーサさん(仮名)宅にやって来た。「許可していない建物だ」と言い放って壊したのである。
家族はまだ残っている部屋で暮らすが、ナクバが本格化すれば、いずれ土地を追われるだろう。
イスラエル建国(1948年)に伴い75万人ものパレスチナ住民が家と土地を奪われた(国連広報センター)。これをナクバ(大災厄)という。民族浄化でもある。
家も生業も奪われる難民は一人といえども出してはならないのだが、ベングビール国家治安相の目論見どおり21世紀のナクバが起きてしまったら、夥しい数のパレスチナ住民が路頭に迷うことになる。
狭い谷にひしめくようにして住宅が貼り付いている。高い場所はユダヤ人が所有し、アラブ人は谷底に追いやられている。
一帯は監視カメラだらけ。用心深いイスラエルのことである。死角はないはずだ。パレスチナ住民は一挙手一投足までがイスラエルの管理下に置かれている。
イスラエル建国=第1次中東戦争(1948年)と第3次中東戦争(1967年)で大量のパレスチナ住民が住み慣れた土地を追われた。
だが戦争当事者であるアラブ諸国はパレスチナ人を受け入れなかった。こうして発生したパレスチナ難民は現在、590万人(UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業)にのぼる。
人が虫けらのように殺される難民キャンプの悲劇は、拙ジャーナルで繰り返しリポートしてきた通りだ。
戦争に巻き込まれれば、殺され家も自由も奪われるのである。ウクライナを見ればお分かり頂けよう。日本とて対岸の火事ではない。
~終わり~
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