ウクライナ軍は28日、英国から供与された対戦車ミサイルの実射演習を内外のマスコミに公開した。
鳴り物入りでウクライナに到着した対戦車ミサイルNLAWの実射とあって、取材には約50社が参加した。
各社はウクライナ軍が仕立てた大型バス2台に分乗してヤーヴォリウ軍事訓練センター(西ウクライナ)に向かった。
軍のパトロールカーが大型バスを先導した。記者たちは“賓客”だった。対戦車ミサイルNLAWの効果を内外にアピールしてもらうためだ。
実射演習は広大な雪原で行われた。横殴りの雪が降りつけるなか、3人の射手は間を置いて1発ずつ発射した。計3発。射程はそれぞれ320m・430m・500mだ。
轟音と共に発射された砲弾は標的に命中し黒煙があがった。取材陣は400mほど離れた所から撮影するので、映像はまったく迫力がない。
NLAWがロシア軍戦車の装甲を撃ち抜いたのは、山岳地帯のチェチェンだった。
NLAWの射程距離は600m。平原が続くウクライナだと、射手は戦車に近づく前に撃ち殺されてしまう。隠れた場所から至近距離でいくらでも撃てる山岳地帯とは条件がまったく違うのである。
ロシアはウクライナ軍にNLAWが供与されたことを百も承知である。知人の軍事ジャーナリストによると、ロシア軍は射程外からの長距離発射で攻めてくるそうだ。
仮に戦車の侵攻を食い止めたとしても、ロシア軍は航空機、ミサイル、艦艇といったあらゆる戦力で攻めてくる。物量のスケールにおいてウクライナ軍とは天と地ほどの開きがある。
ウクライナ軍を見ていると、乏しい戦力で米英連合軍を相手に無理を重ねた旧日本軍を想起してならない。
もう一つ。ウクライナ軍は広報作戦においてもロシア軍の足元に及ばない。
押し寄せる戦車軍団、キビキビと動く歩兵部隊、ロケット砲の実射・・・ロシア国防省は毎日毎日、迫力ある新しい映像を繰り出し、BBCなどを通じて世界に見せつける。
名画『戦艦ポチョムキン』(エイゼンシュタイン監督)を製作したロシア。スターリンは無類の映画好きだった。
いまBBCなどで流されているロシア国防省提供の映像も、映画の予告編仕立てとなっている。
それに引き換え、ウクライナ軍の映像は、東部国境で塹壕を歩く兵士、義勇兵の訓練、そして今回の対戦車砲の実射くらいだ。まったく地味だ。
映像を刷り込まれているヨーロッパの人々は、開戦前から戦争の結果を予想するだろう。
戦争が変な方向に発展しないことを祈るのみだ。
~終わり~
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