大国のご都合主義をまざまざと見せつけられた。
「英国版・赤坂自民亭」スキャンダルで針のムシロに置かれるジョンソン首相が1日、ウクライナを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談した。
カネも武器弾薬も出してやってんだから、腹をくくって最後までロシアに抵抗するんだぞ・・・ジョンソン首相の声が聞こえてくるようだった。
会談後、マリンスキー宮殿で両首脳による記者会見が持たれた。幸いウクライナには「平河クラブ」も「内閣記者会」もないため、田中は記者会見に出席した。
ゼレンスキー大統領の冒頭あいさつにウクライナの置かれた現状が凝縮されていた。
「我々はウクライナの軍隊しか信用できない」。ジョンソン首相を横にしてゼレンスキー大統領は言った。
NATO加盟の欧米各国は、カネと武器弾薬は提供するが、ウクライナには部隊を派遣しないのだ。
ウクライナをロシアに渡すわけにはいかない。さりとてロシアと一戦交えるのは怖い・・・これが本音である。
NATOはユーゴ内戦(1990年代)の際、同盟国ではないユーゴスラビアに部隊を派遣しているのである。コソボでは空爆まで掛けている。
ミロシェビッチ大統領のユーゴ軍だと踏み切れた。だがプーチン大統領のロシア軍だとそうはいかない。
NATOに覚悟があれば、2014年にあったロシアのクリミア侵攻の際、何らかの行動を起こしていたはずだ。結局、手を拱(こまね)いて見ていただけだった。
大国の身勝手はこれより20年も前に遡る。
ブダペスト覚書(1994年)である。世界第3位の核保有国だったウクライナは所有していた核を放棄する。代わりに覚書署名国はウクライナに安全保障を提供する。署名国はアメリカ、ロシア、イギリス。
現状はどうだろう。安全保障どころか安全は脅かされているのだ。
ウクライナは大国に裏切られたのである。一部の野党議員が問題にしていた時期もあったが、最近は沙汰止みとなった。
記者が「メディアは今にもロシアが侵攻してくるかのように報道するが、言い過ぎではないか?」と質問した。
ゼレンスキー大統領の答えは、これまでの報道と180度趣が変わっていた。
「言い過ぎではない。(侵攻してこないという)100%の保証はない。2014年のクリミア侵攻を誰が予想したか。(情勢は)どうなるか分からない」。
~終わり~
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