【ウクライナ発】戦場の村 「米露協議なんてアテにしていない」

ナスタシィ-ヤさん(仮名)。ウクライナ軍の車両(写真奥)があるのはせめてもの意地だろうか。=11日、レベディンスク村 撮影:田中龍作=

そもそも妥協点なきロシアと欧米の協議がダラダラと続く中―

厳然としてあったのは、人間の死と家屋の破壊と村人の脱出だった。

レベディンスク村。欧米とウクライナ軍が死守する港町マリウポリから10㎞北東に位置する農村だ。

2015年、村は親露勢力の砲撃にさらされた。砲撃は1年にわたって続いた。

夏にロシア側の攻勢が厳しくなったため、ナスタシィーヤ・イヴァスチェスコさん(仮名・1951年生まれ)は、娘の住むマリウポリに身を寄せた。だがアパート暮らしに馴染めず、3ヶ月で村に戻った。

村では近所の家に地下シェルターがあり、3ヶ月ほど過ごした。暗くて湿気が多くトイレにも不自由したため腎臓を患った。

親露勢力の砲撃で破壊された建物。=11日、レベディンスク村 撮影:田中龍作=

砲撃により家屋120軒が破壊された。ナスタシィーヤさんの家は屋根が吹き飛んだ。戦火がとりあえず止んだ頃、ボランティアグループが修復してくれた。

逃げ遅れた3人が爆弾の破片を受けて死亡した。800人いた村の人口は300人となった。残ったのは、ほとんどが老人だった。

「若い人たちは皆出て行ったよ」。ナスタシィーヤさんは淋しそうに語った。

田中が「侵攻回避に向けた協議が今、開かれていますが」と聞くと「アテにしていないよ」とニベもなく答えた。

「ロシアがまた攻めて来たらどうしますか?」

「ここにいるよ。どこにも行かない。土と家があるから」。ナスタシィーヤさんは、ニンジン・玉ねぎ・ジャガイモなどを栽培しながら静かに暮らす。村の土に帰る覚悟だ。

グレーゾーン手前の検問所。障害物が道路を完全に塞いでいた。=11日、マリウポリ近郊 撮影:田中龍作=

レベディンスク村のような地区はグレーゾーンと呼ばれる。ウクライナ軍の管理が及ばないエリアである。見捨てられた地とも言えよう。

近隣の強国に攻め込まれるウクライナ。親露勢力が実効支配する地域つまりブラックゾーンは、ドネツク州の約半分に及ぶ。

ドネツク中央駅もドネツク空港も親露勢力に破壊された。

「(米露協議なんて)アテにしていないよ」。ナスタシィーヤさんの言葉が事態を象徴していた。

~終わり~

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