ウクライナ軍の上陸用舟艇が重低音を轟かせながら、マリウポリの海岸を警戒していた。氷点下5度。東京から来た田中にとってアゾフ海から吹き付ける風は身を切るように冷たい。
砂浜には敵の上陸を阻止する障害物が並べられていた。港というにはあまりに殺風景だ。船舶らしき物は湾内に見えない。
ベテラン港湾労働者のゲナジーさん(60代)に事情を聴いた。
「戦争(2014年)前は1日に30~40隻が列を作って港に入るのを待っていた。ところが戦争後、船がめっきり減ったよ」。ゲナジーさんは埠頭を指さしながら語った。
コンテナ船乗組員のオレグさん(50代)は、ゲナジーさんと異口同音に船が減ったことを淋しがった。
オレグさんは「ロシアのクリミア半島併合が原因」「戦争で港の利用料金が高くなったことも影響している」と船乗りの視点から説明した。
2018年11月、クリミア併合がなければあり得なかった事件が起き、国際世論を騒然とさせた。
ウクライナの艦船3隻が黒海からアゾフ海沿いのマリウポリに向かうため、ケルチ海峡を通過しようとしたところ、ロシア連邦保安局(FSB)に拿捕されたのである。BBCも映像付きで大きく伝えた。
「ケルチ海峡はクリミア半島の近海だから、ウクライナの艦船は領海侵犯にあたる」というのがロシア側の言い分だ。
クリミア半島を軍事力で分捕っておきながら「ここは俺の海だ」と言い張るのが、いかにもロシアらしい。
アゾフ海がロシアにより海上封鎖されたことで、ウクライナ南東部は兵糧攻めに遭っているようだ。
~終わり~