通称地獄谷。高級住宅街と下町が混在する大田区にあって、昭和中頃まで赤線地帯だったとも青線があったとも云われる。商店が並ぶ賑やかなバス通りから階段を降りて行くと、昭和にタイムスリップしたような裏路地にお陰食堂(屋号:地獄に佛)があった。
経営者の戸澤宗充さんがここで4年前から月2回、子供食堂を開く。「地元に何か奉仕ができないだろうか」と思って始めた。
きょうのメニューは「おにぎり」「牛丼」「豚汁」の3品。大根、ニンジン、里芋、玉ねぎ、長ねぎをグツグツと煮込んだ。「お母さんが仕事で忙しくて作れないのが煮込み料理」。戸澤さんは豚汁をメニューに入れた理由を語った。
料金は高校生までは無料、大学生と大人は500円となっている。午前11時に開店すると瞬く間に客が集まってきた。ひっきりなしだった。ほとんどは地元住民だ。幼な子の手を引いた父親や母親が目立つ。
高校2年の女の子は、中学2年の時から欠かさず食べに来ている、という。毎月2回、お腹一杯食べられるのだ。
豚汁の濃密な匂いと牛丼の甘辛いマッタリとした香りが狭い路地に垂れ込めた。
40年くらい前までは父ちゃんが額に汗すれば一家が、食べていけた。今は共働きしても食うや食わず、だ。政治に血が通っていないため公助に頼れないご時世、共助で支えるお陰食堂。まさに地獄に佛である。
用意していた牛丼50杯、オニギリ100個は、飛ぶようになくなった。
~終わり~