大蛇のような行列を初めて見た人は何が起きたのかと驚くだろう。場所は東京都庁下ときている。
「新宿ごはんプラス」と「もやい」が毎週土曜に共催する食料配布だ。
2014年7月から「新宿ごはんプラス」単独で始めた。開催日は毎月第1、第3土曜日だった。1回60~80食の配布だった。
「もやい」が加わるようになったのは2020年4月から。コロナ感染に対する緊急事態宣言が東京で初めて発令された月だ。
開催日は毎週土曜日となった。この年は120~180食の間を推移していた。
2021年になってからは280~300食に。きょう10日、用意していた281食は、11分ではけた。コロナ感染の広がりと配布食料の数は比例する。
ベテランのボランティアによると、食料配布に並ぶ人のうち、野宿者と住宅のある人は半々ぐらい、という。
長蛇の列ができるのは、主催者の長年の活動が生活困窮者に知られていることも大きいが、食料を求める人たちへの気配りが並々ならないからだ。撮影NGなのである。
「もやい」の大西連代表は「何よりプライバシー。カメラを向けられると怖くなって来れない人もいる」と説明する。取材拒否ではないのである。
別の食料配布を取材していた時のことだ。食料を受け取りに来た男性に「お顔は写しませんから」と言ったのだが、男性は食料に近づかなかった。そこで田中は先に撤退した。
後ろ姿でも肩から下でも、見る人が見れば分かる。親戚に知られたくない。借金を抱えていたりする。
生活困窮者は他人に言えない事情を抱えている。彼らにカメラを向けようとした田中は配慮に欠けていた。男性の悲しそうな顔が忘れられない。
駅前で開催される食料配布に行列ができないのは、人目が気になるからだろう。この逆が室内での開催だ。瞬く間に食料ははける。
夜の帳が完全に降りてから店の脇にそっと出す「夜の無料弁当」は、人目につかずに済む。生活困窮者にとって有難い配慮だ。
メディアに紹介されると主催者への支援の輪が広がる。しかし一方で生活困窮者のプライバシーを脅かす。ジレンマを抱えながらの取材だ。
~終わり~
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