ある生活保護受給者(埼玉県ふじみ野市在住・男性)の8歳の長女が38度5分の高熱を出し、近所の発熱外来を受診した。
医師が「PCR検査を受けますか」と言うので検査を受けた。今月14日のことだ。
それから4日後の18日にふじみ野市役所の福祉課から男性の携帯に電話が掛かってきた。
福祉課は男性の長女がPCR検査を受けたことを確認すると「次回からPCR検査を受ける場合は事前に(福祉課の)許可を取ってくれ。さもなくば自腹になる可能性がある」と告げた。
ふじみ野市役所は14日、福祉事務所長名で市内の医療機関に対して「生活保護受給者がPCR検査を実施する場合は、必ず福祉課までご連絡下さい」との通達を出している。
生活保護受給家庭の子供のPCR検査を実施した病院が、通達に沿い福祉課に連絡したのである。男性は「自腹というのを聞き、すっかり萎縮してしまった」と力なく語った。
知人のベテラン医師(60代)は「人道問題だ」と言って驚きを隠さない。
生活保護問題に長年取り組んできた弁護士は、次のように指摘した―
「生活保護受給者は栄養摂取が満足でなく免疫力が低下しているため、ウイルスに感染しやすい。(なのに)自腹という恫喝でPCR検査を抑制させようとしている」。
医師が必要と判断すればPCR検査(※)は無料だ。生活保護受給者だけが自腹というのは憲法25条の精神を踏みにじるに等しい。
前出のベテラン医師は「コロナ感染を抑制するためにも、生活保護受給者が受診を自粛するような指導は厳に慎むべきだ」と怒りを抑えきれない様子で語った。
厚労省のスタンスは、生活保護受給者のPCR検査は問題ない、だ。
同省生活保護課の医療係は田中の電話取材に「医師が必要と認めた場合は保険適用となるので(生活保護受給者のPCR検査は)問題ない」との見解を示した。
ふじみ野市福祉課は田中の問い合わせに「医療扶助を出すべきかどうかを把握するためにも事前に連絡を頂きたい」と答えた。
この国の最高権力者は「最後は生活保護がある」と言い放った。だが現場では生活保護受給者が見捨てられようとしている。
~終わり~
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病院の受診料は支払わなければならないが、医師が必要と判断すればPCR検査そのものは無料。
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『田中龍作ジャーナル』は生活者の立場から行政の驕慢を追及します。取材費は読者のご支援により賄われています。↓