【赤字団体寸前で町は公共事業を捨てた】
島根県松江市の沖合60キロに浮かぶ隠岐中ノ島は、周囲89・1km。海士(あま)町という「1島1町」の小島だ。境港からフェリーと渡船を乗り継ぎ3時間半かけてたどり着く。典型的な離島である。
島には農業と漁業以外に産業らしいものはない。働き場がなければ若者は島を離れる。町役場のデータによれば高校卒業後はほとんどが島外へ出て行く。生産人口は減り高齢者は増える。高齢化率は39%にも達した(2005年国勢調査)。10人のうち4人が65歳以上のお年寄りということになる。
税収は減り医療費などは増える。海士町の財政は苦しくなる一方だった。2002年には海士町の負債は100億円を超えた。借金が島の年間予算の2・5倍にも上ったのである。数年後に赤字団体に転落することは目に見えていた。夕張で起きていることは対岸の火事ではなかったのだ。
悪いことは重なる。小泉政権による『三位一体の改革』がただでさえ苦しい海士町の財政を直撃した。地方交付税交付金が1億3,000万円も減らされることになったのである。町税収入に匹敵する金額だった。
『三位一体の改革』は公共事業をも激減させた。「公共事業では生きてゆけなくなる」と痛感した山内道雄町長は、道路、橋、岸壁を作ることを止めた。公共事業を捨てたのである。
山内町長は地元政治家(町議会議員→町長)に転身する前は20年間、本土のNTTで営業畑を歩んできた。コスト感覚が染み付いているのだ。
山内町長は同時に行政自らのリストラを断行した。収入役を廃止した他、町長、助役、議員、教育委員、職員の給与を大幅カットしたのである。
平成16年度から実施し、翌17年度には町長=50%、助役・議員・教育委員=40%、職員=10~30%減とした。まさしく身を削るような賃金カットだった。同年度には2億円の人件費を削減できた。
「役場の課長たちが『町長、我々の給料をカットして下さい』と言ってきた」。山内町長は懐かしそうに当時を振り返る。課長たちにしてみれば、町がもし赤字団体に転落したら元も子もなくなる、という危機感があった。
海士町はこうして浮かせた資金で外から人材を集め「島の宝物」を育てることにした。宝とは「海の幸」である。誰もが考える企業誘致ではなかった。
(つづく)