2時間余りの革命だった―
デモ隊が警察の規制線を破り国会議事堂に向けて突き進んで行った。先導するのは学生たちだ。
「アベは退陣、アベは退陣」・・・シュプレヒコールが、国権の最高機関に突き刺さるように響いた。
機動隊の輸送車が2列になって議事堂正門を塞いだ。国会突入を防ぐためだ。輸送車の手前にはバリケードが置かれ、議事堂とデモ隊を直接遮断した。
デモ隊はバリケードのすぐそばに座り込んだ。沖縄から来た大学4年生の顔は紅潮していた。
「僕らの声を聞いてほしくて決壊(警察の規制線を破る)させた。安倍にこの声を聞かせたい。聞いていないとは言わせない」
男子学生はコールをあげながらインタビューに答えた。
徴兵制が敷かれれば、彼らは戦地に赴き銃をとることになる。経済的徴兵制も現実味を帯びてのしかかる。危機感で一杯だ。
幼な子を片手で抱っこしながら、もう一方の片手で拳を突き上げる男性(40代)がいた。
「(安保法案は)子を持つ親にすればありえない。勝手に進められていることに怒りを感じる」。男性は厳しい表情で拳をギュッと握りしめた。
朝から降ったり止んだりしていた雨は大粒となった。「アベは辞めろ」・・・それでもコールの熱は冷めなかった。
人々の怒りはメタンガスのように充満していた。三色旗を掲げて立っているのは、大阪から朝一番の新幹線で駆けつけたという創価学会婦人部の女性(40代)だ。
「まさか戦争はしないだろうという『公明党信仰』があった。野党にいたら公明党は(安保法案に)賛成しただろうか? 安倍政権も公明党も倒す」。
女性は眉を吊り上げ、歯がみしながら話した。
怒りは既成秩序をくつがえす。国会前を埋め尽くした12万人の市民(主催者発表)に警察は手出しできなかった。
「民主主義って何だ? ここだ」。学生たちのコールが雨空を突いて響いた。独裁政治の教科書のような安倍政権に対する怒りだ。
30余年間続いたムバラク政権を倒したエジプト・タハリール広場の集会が頭をよぎった。
革命を連想させた熱気は、しかし、束の間だった・・・
「気を付けてお帰り下さい」。主催者が呼びかけた。ゾロゾロと引き揚げる参加者たち。8月30日午後4時。アベ続投が決まった瞬間だ。
タハリール広場にはテントが林立し、集会参加者が寝泊まりした。広場のオキュパイは約20日間も続いた。
参加者が治安部隊に射殺されても、市民は続々と広場に押し寄せた。
エンジンがかかった戦車の下に体を敷き込んだ建築作業員の言葉は、今も耳の奥に響く。「怖くない。民主主義のためなら死んでもいい」と。
タハリール広場と比べることが、おかど違いなのかもしれないが。
それでも坂本龍一氏が学生たちに贈ったエールは、安倍政権がある限り革命の火種となり燻(くすぶ)り続けることだろう―
「まだ日本には希望があると思った。仮に安保法案が通ってもこれで終わりにしないで行動を続けてください」。
~終わり~
◇
読者のご支援の御蔭で『田中龍作ジャーナル』は続いています。
◇
『田中龍作ジャーナル』では取材助手を募集しています。時給、交通費払います。ジャーナリスト志望の若者を歓迎します。学生可。詳しくは…tanakaryusaku@gmail.com