禁演落語が上演されると聞き、筆者は昨夕、浅草の寄席まで足を伸ばした。
禁演落語とは戦時中、当局のすすめを受けて当時の講談落語協会自らが上演を禁じた落語の演目である。
廓噺、間男噺など時局にふさわしくないと判断された53演目が禁演落語に指定され、高座から姿を消した。これらの中には江戸名作落語もあった。
その際、記念品に何か送ろうということで高射砲を一基贈呈したという話もある。敵機を「落とす」と落語の「落とす」をかけたシャレだ。
嫌味だったのか、権力への擦り寄りだったのか。今となっては分からない。
昨夕、上演された演目は「引っ越しの夢」の一席。質屋の大番頭、小番頭が女中部屋に夜這いをかけたが失敗に終わるという噺だ。
“期待”していたエッチな描写は、一言も出ない。番頭さんたちのスケベな下心がコミカルに描かれているのが、時局柄ふさわしくなかったのだろうか。
なにゆえ自粛されなければならなかったのか? 戦後生まれの筆者には不思議でならなかった。
太平洋戦争開戦直前の1939年(昭和16年)10月30日、禁演落語に指定された演目の台本は、浅草寿町(当時の地名)の本法寺に建つ「はなし塚」に葬られた。
「マスコミを懲らしめろ」「沖縄の2紙を潰せ」・・・安倍首相の周辺が意欲を示す言論統制は、現代の「はなし塚」につながる薄暗さがある。
テレビ朝日とNHKを自民党本部に呼びつけての事情聴取(※)は、すでに言論統制が始まっていることを示す。
無料ブログの運営会社が、政権を厳しく批判するサイトを凍結する事例も珍しくない。自主規制である。
アカウント凍結の多いサイト運営会社の社長は、安倍首相のお食事仲間だ。
コントロールの利かないネットメディアを、サイト運営会社が自主規制してくれるのである。安倍政権にとってこれほど有難い話はない。
現代の「はなし塚」は「アカウント塚」になるのだろうか。「おあとが宜しいようで」とはいかない。
~終わり~
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自民党情報通信戦略調査会は4月、NHKの堂元光副会長とテレビ朝日の福田俊男副会長を呼び事情を聞いた。テレビ朝日は「報道ステーション」で元経産官僚の古賀茂明氏が「官邸から番組に圧力がかかった」と発言した問題で、NHKは「クローズアップ現代」のやらせ報道で。
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