【ネット選挙】 悪魔のツールにするも天使のツールにするも候補者しだい

候補者の当確が出ると選挙を支えたボランティアたちは喜びを爆発させた。=2013年、都内 撮影:田中龍作=

2013年夏、参院選挙―

どこの政党にも属さず宗教団体や労働組合の支援も受けない一人の青年を、市民が国政に送り出した。

公職選挙法の改正によりこの年の4月、インターネット選挙が解禁になったのだ。7月21日に投開票があった参院選挙は、ネット選挙解禁後、初めての国政選挙となった。

組織のない青年候補にとってインターネットは最強の武器となった。

候補者とのツーショット写真を聴衆の携帯電話で撮り、それを友人・知人・親戚などに転送してもらう。今でこそ当たり前の拡散手法となっているが、当時としては画期的だった。

ネット選挙が解禁になっていなかったら、果たして当選できたか。

何しろ初めてのインターネット選挙だった。無所属にとっても各政党にとっても。

青年候補の陣営も危ない橋を渡りかけた。あるネット戦術をめぐって、識者から「公選法違反ではないか」との指摘があり、すぐに中止した。お蔭で司直の手が入ることもなかった。

街宣はどこに行っても黒山の人だかりとなった。=2013年、撮影:田中龍作=

ネット選挙は誰がやっても上手くいくものではない。

福島の原発事故から間もない2013年夏の参院選で、青年候補が訴える「脱原発」は鬼気迫るものがあった。自らが原発反対を唱えたため仕事を干されてしまったのだから。

若い労働者は青年候補が「過労死防止法の制定」「派遣労働の制限」を訴えると「ウォー」と唸り声をあげて拳を突き上げた。

1千人超のボランティアが青年候補の選挙を支えた。正真正銘の手弁当である。

最近あった県知事選挙のどこかの陣営のようにカネにモノを言わせた動員ではない。

YouTubeの再生回数が100万回を超えたといわれるインフルエンサーの演説。聴衆は集団催眠にかかった。=11月15日、姫路市 撮影:田中龍作=

あれから10年余りが過ぎた。ネット選挙はデマを拡散し集団催眠を作り出す悪魔のツールとなった。

11年前に青年候補が一途な思いを社会にぶつけた頃の拡散ツールは、ツイッターが中心だったが、今ではYouTube、TikTok、インスタなどに及ぶ。その分、拡散力は飛躍的に増大した。

志ある候補がネットを上手に使いこなせば、カネや組織がなくても道は開ける。11年前、参院選挙で初当選した山本太郎は、今では国会議員14人を抱える国政政党のリーダーである。

政治が人であるようにネットも人である。悪魔のツールにするのも、天使のツールにするのも候補者しだいである。

~終わり~

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