開戦から14日目、3月9日。
キエフの街はバリケードだらけだ。それでもまだクレーン車を出して、コンクリートブロックを積み増す作業が続いていた。
ロシア軍の戦車が首都中枢に入ってくるのを1分でも遅らせたいのだろう。
きょうは地元メディアのクルーと共に動いた。リーダー格の記者(40代)は「ウクライナの現実を世界に報せてほしい」と語った。
「(1日に)爆破されたテレビ塔を見せるよ」と言い取材車で現地まで連れて行ってくれた。
テレビ塔は中央部が煤で黒ずんでいるもののしっかり屹立していた。
驚いたのはバス通りをはさんだスポーツクラブが壊滅的な打撃を受けていたことだった。
軍事施設とは関係のない民間施設をやたらと破壊するロシア軍の攻撃を象徴するようだった。
テレビ塔とその周辺を取材した後は、独立広場に向かった。
ウクライナがソ連の支配下にあった頃、独立広場は「10月革命広場」と呼ばれた。業者に依頼しなければ倒せないほど巨大なレーニン像が人々の精神を圧していた。
ここで青空クラシックコンサートがあるというのだ。オケは「キエフ・クラシック・オーケストラ」。ウクライナではナンバー1のオケである。
演奏曲目を知って唸った。「ウクライナ国歌」は当たり前だったが、「ベートーベンの交響曲9番第4楽章」がラインアップにあるのだ。
第4楽章「歓喜の歌」は「欧州の歌=European Anthem」または欧州賛歌と呼ばれる。
欧州評議会や欧州連合(EU)などの式典でヨーロッパ統合のシンボルとして歌われている。
コソボの独立式典(2008年)では、国歌の代わりに「歓喜の歌」が演奏されたほどだ。コソボの独立はロシアが反対しEU諸国が承認した。
ゼレンスキー大統領は2月末、EUに加盟申請した。EUには軍事部門もある。だからこそ承認までの道のりは遠い。
独立広場の空に響いた第4楽章。「こんな目に遭わないためにも早くウクライナをヨーロッパの一員にしてくれよ」…人々の切なる願いを込めて、指揮者はタクトを振り、奏者は楽器を奏でた。
~終わり~
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カードをこすりまくりながらの現地取材です。↓