「香港にいた民主派のTsung君(仮名)が今、ウクライナに住んでいて『龍作さんがもし困ったことがあったら何でも言って下さい』と連絡してきました」…日本の友人・木下氏(仮名)からDMが届いた。
Tsung君のアカウントを見つけ出しすぐに連絡を取った。キエフ郊外に暮らすTsung君はすぐに田中の投宿するホテルに駆け付けてきてくれた。
香港を脱出したのは去年の秋という。夏頃、仲間の民主活動家が続々と逮捕された。「捕まらないうちに」と思い、生まれ育った香港を後にした。
「仲間は拷問にかけられ薬を飲まされた。叫び声が(刑務所の)廊下まで響いていたそうだ。組織を炙り出すためだ」。Tsung君は沈痛な表情で語った。
田中の窮状をTsung君はTwitterで知った。すぐに木下氏に冒頭の連絡を入れた。2019年、木下氏も中国による香港民主派への苛烈な弾圧を取材し続けていた。
田中と木下氏にとってTsung君は取材対象を超えた同志でもあった。
マイダン革命(2014年)の頃から田中の取材を支えてくれていた現地通訳が音信不通になり、田中は途方に暮れていた。
Twitterでそれを知っていたTsung君はウクライナの民主活動家K氏につないでくれたのである。K氏は各界に幅広いネットワークを持つ。通訳が見つかるように、とのTsung君の配慮である。
K氏はすぐに田中が投宿するホテルに来てくれた。ロビーのソファーに腰を降ろすと「香港の民主化闘争は(ウクライナの)マイダンと似ている」と語り始めた。マイダン革命が起きた2014年、香港では雨傘革命があった。
K氏は「『香港・台湾と中国』『ウクライナとロシア』は同じ構図だ」と続けた。
独裁者の支配する強国が、近隣地域に侵攻する。
世界どこに行っても同じ図式があるが、独裁に抗する民主主義のネットワークは、どっこい世界に根を張っているようだ。田中はそのネットワークに助けられた。世界は広いようで狭い。
~終わり~