わずか10数人の市民に対して、国際オリンピック委員会(IOC)の会長ともあろう人物が、ここまでコソコソする理由は何なのだろうか。
来日中のバッハ会長が、きょう、国立競技場を視察した。五輪開催に反対する市民が、昨日の都庁に続いて抗議に押し掛けることが充分に予想されたため、国立競技場周辺は厳重な警備が敷かれた。
反対派市民の集合場所となったJR千駄ヶ谷駅前は、数えきれないほどの私服警察が配置された。乗降客の数よりもはるかに多い人数だった。
数ばかりではない。警察はいつにも増して気合十分だった。
五輪に反対する市民グループが競技場の外周を歩き始めると、班長とおぼしき老刑事がツツーと先頭に詰め寄って来て「オマエがデモの指導者か?連呼は止めさせろ」「東京都公安条例違反だ」と凄んだ。
老刑事は「現在●時●分。警告したからな」と告げた。私服刑事数名が白手袋を着用した。「逮捕の用意があるよ」という意味だ。
警察は硬軟両面を使った。
市民グループは競技場南側のP3ゲートでバッハ氏を待った。シュプレヒコールをあげ続けた。「オリンピックは要らない」「(開催費用)3兆円返せ」「オリンピックより命が大事だ」・・・
同行取材で競技場の中に入った複数のマスコミ記者によるとシュプレヒコールは中まで届いていたようだ。
だが待てど暮らせどP3ゲートからバッハ会長は出て来ない。マスコミ記者たちによると「もう出て行った」。
警察は裏をかいたのである。
だが、国立競技場すぐ前のJOC会館前がものものしいことに気付いた。制服、私服の警察がネズミ一匹通さないほどの密度で張り付いていたのだ。
会館の中のようすがブラインド越しに見えた。懇談会らしきものが開かれていた。カメラを向けると、フレームの中に山下泰裕JOC会長とバッハ氏がいた。
反対派の一人が「バッハがいたぞ」と叫んだ。皆が集結しJOC会館前は騒然となった。「IOC Shame On You」「IOC Go To Hell」・・・当人に分かるよう英語でシュプレヒコールをあげた。
懇談会は終わっても、バッハ会長は外に出られる状況ではなかった。反対派は横断幕を持ち、駐車場の出口に陣取った。世界のオリンピック委員会に君臨する男が雪隠詰めになったのである。
制服、私服の警察官は約100人に膨れあがった。指揮官とおぼしき警察官が部下に「機動隊を出して一斉に排除するか」と耳打ちした。
バッハ氏がJOC会館に閉じ込められて30分が経過した頃だった。警察が動いた。駐車場からの出口を塞いでいた市民グループを、力で移動させたのである。
黒塗のワゴン車3台と乗用車が次々と猛烈なスピードで飛び出して行った。あっと言う間の脱出劇だった。
マスコミが政府関係者の話として伝えたところによると、バッハ会長は苛立ちを隠せなかった。日本国内に五輪懐疑論があり開催機運が盛り上がっていないためだ、という。
きょうの雪隠詰めは効いたはずだ。
~終わり~
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