自民党の若手議員たちが、菅官房長官の事務所を訪れて総裁選への出馬要請をするというので、田中は菅事務所のあるフロアで待った。
各社のカメラマンたちも次期首相を撮影しようと待ち構えた。
唖然としたことが起きた。記者クラブ側が撮影を申し込んだのは、若手議員の秘書に対してだったのだ。菅氏事務所ではないのだ。
菅事務所に行くのだから、そちらに直接申し込めばいいではないか。記者クラブの面々は気の毒なほど菅事務所に遠慮していた。
結果、ワンカットも撮影できなかった。誰かに制止されたわけではない。
次期首相の覚えを良くしておきたい若手議員たちは、官房長官が事務所に戻ってくると拍手で迎えた。
あらん限りのお世辞を並べたてた若手が退出すると、約20分後に菅氏が事務所から出てきた。
番記者たちは菅氏の後をゾロゾロとついて歩いた。借りてきた猫のように大人しい。顔色もなかった。
菅官房長官は、マスコミ特にテレビ局に対して、陰に陽に圧力をかけていたと言われる。記者たちは怖さが骨身にしみているのだろう。
記者たちの忖度が安倍政権以上の情報統制を招くことになる。
~終わり~