選挙の常識をひっくり返したのは有権者だった—
山本太郎が出馬を表明すると、山本支持者と宇都宮支持者の両方がブーイングを浴びせた。
「大義がない」「野党票を割ってどうするんだ?」…
かくいう田中も「立候補すべきでない」と制止した。 山本の応援に入っている衆院議員の馬淵澄夫も「止めた」という。
これまで山本に投票してきたコアな支持者までが反発し「今度は宇都宮さんに入れる」とまで言った。
ところが、選挙戦が始まると状況は一変した。コロナ禍にありながら山本の街宣会場には多くの聴衆が詰めかけた。
4日、最終演説会場となった新宿南口は、人で溢れた。ソーシャルディスタンスをとるための整理で演説開始が15分間遅れるほどだった。
れいわ旋風を巻き起こした昨年夏の参院選を思い起こさせる聴衆の数だった。
失った支持者もあるが、それ以上に新たな支持者ができたのだ。
コロナで職を失い政治の大切さに気付いた人が少なくない。「今回、初めて選挙に行く」と答える有権者が目につくのは、コロナのせいだろうか。
30歳の女性は「今まで一度も投票に行ったことがなかったが、人生で初めて投票した」と話す。
彼女は期日前投票に行ったのだ。6月15日に新宿西口であった街頭演説を聞いて山本に一票を投じることを決めた、という。
「政治は難しい言葉が多くて何を言ってるのか分からなかったが、山本太郎の話は分かりやすくて心に響いた」。彼女は目を輝かせながら、山本に投票した理由を語った。
100人のうち100人までが「太郎でなければ今の政治を変えることができない」あるいは「太郎だったら変えられる」と答えた。
選挙戦序盤は「宇都宮さんに入れるか、太郎に入れるかで迷っている」という有権者が圧倒的に多かった。
選挙戦が進むにつれ、次第にその声は聞かれなくなった。
最終盤に至っては「太郎にするか小池にするかで迷っている」という声まで聞かれるようになった。
山本は革命家ではあるが、政治姿勢はコテコテの保守である。
選挙に行かなかった層を投票所に向かわせ、保守を装った小池の票を食う。
予想だにしなかった展開となっているのは—
山本が旧来の日本政治になかった手法で分かりやすく語りかけ、コロナで目覚めた有権者が呼応したからだろう。
~終わり~