「今週になりオーバーシュートの懸念がさらに高まっており、今まさに重要な局面です。平日はできるだけ仕事は自宅で行い夜間の外出は控えてほしい」。25日夜8時に小池都知事の会見が終了すると30分後くらいから、パニック買いが始まった。
それから4時間後の12時頃、近所のスーパーに行ったが、すでに遅かった。長蛇の列は解消され、店内は閑散としていた。コメ、ラーメン、パスタの棚はからっぽだった。
一夜明けた今日、都心から3キロと離れていない下町のスーパーに行ってみた。すでに20人ほどの客が10時の開店を待って並んでいた。皆、カートに買い物かごを載せていた。臨戦態勢は十分だ。
短針が10時を指すと、人々は一斉に入店した。入口で「10時開店」の貼り紙を片付けていた男性店員は「今日も人が多いですね。昨夜も凄かった」と話す。
客のお目当ては冷凍食品、コメ、乾麺など。肉のジャンボパックを手にする人も少なくない。開店から20分も経たないうちに、一瞬だが鶏肉が棚から消えた。
政府が商品券で配るという和牛は、一割引きのシールが貼られていても誰も見向きもしない。安い鶏肉から先に無くなっていく。
ドサッ、ドサッ、と音をさせて大量に冷凍食品を買い込む音が響く。人々の勢いに気おされて、控えめに数個確保した女性は、「外出できなくなった時のおやつにタコ焼きを買おうと思って」と苦笑いした。
うどん、そうめんなど乾麺ばかりを買い物かごに入れていた60代くらいの女性は、「昨夜の小池さんの会見を見て、驚いた。会見のあと初めて(スーパーに)来た。ウチには何にもないんでね」と話す。
女性店員が、かっぷくの良い常連客とおぼしき女性に声を掛けた。「ママー、お米あるわよ。いつ入って来るか分かんないから、買っといたほうがいいよ」。
5キロのコメ2袋だけをカゴに入れて長いレジ待ちの列に並んだ高齢の男性がいた。
「コメはしばらく経っても食べられるからなあ。何にも無くてもコメさえあれば何とかなる。昨日の小池さんの会見をテレビで見たよ。どうなるのかね」。
男性は総重量10キロのコメが入ったカゴを足で蹴飛ばして前進させながら非難がましくつぶやいた。「肉だ何だといっぱい買いやがって」。
買い物に出られる家族がいない一人暮らしなのだろうか、食材を買う余裕がないのだろうか、両手に重たいコメを下げ、とぼとぼと家路をたどる男性の姿を想像して悲しくなった。
新型コロナウイルス流行が発覚して以来、マスク転売、トイレットペーパーやコメ買占めと、幾度も繰り返されてきた「先行き不安」による人々のパニック買い。
オリンピック延期が決まったとたん、患者数を大量に増やして発表する知事を誰が信用できるだろうか。ろくに検査もせず、安心できる政府の保障もない。「不安」と「心配」が人々をさらなるパニック買いに陥れている。
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