紛争の現場を最もよく知る男は、誰よりもリアリストだった。
トランペッターが紛争解決人となったのか。紛争解決人がトランペッターになったのか。伊勢﨑賢治(※)のもう一つの“職業”はJAZZトランペット奏者である。
東京・吉祥寺のJAZZ喫茶で昨夜あったコンサート&トークライブを聞きに出かけた。
客の多くは曲と曲の間の伊勢﨑節を聞きたさに訪れる。伊勢﨑は当然、最新の時事問題も語ったが、紛争解決人らしく小気味よかった。
稲田朋美防衛相がわずか7時間の滞在で「落ち着いている」と能天気に言った南スーダン情勢については、「軍事力で平和を作っているだけ。落ち着いてなんかいない」とズバリ言い切った。
原発についても軍事をよく知る伊勢﨑らしい指摘だった。「アメリカは本土から最も遠く、仮想敵国のすぐ手前に究極の地雷を埋めた。54基も」。
自分のイメージを伝えて作曲してもらったというオリジナル曲は、その名も「タリバン(坂本千恵作曲)」。
伊勢﨑がいみじくも指摘するようにタリバンは「アメリカが勝てなかった」武装勢力だ。「指導者たちは清貧。いいテロリストになっている」と目を細めた。
世界最大のアヘン産地に4大部族が割拠し、近隣諸国が露骨に干渉する。ロシア、イラン、パキスタン、中国・・・いずれも曲者だ。戦乱が絶えず人々は貧しい。
そんなアフガンに思いを馳せて吹いているのだろうか。伊勢﨑のトランペットがむせび泣いているように聞こえて仕方がなかった。
外交と防衛はアメリカ任せだった日本。伊勢﨑は手厳しい。「何も考えなくて済んできた。トランプ(次期大統領)の出現で『もしかして見放されるかも』と気づくようになった」。
オリジナル曲ばかりでなくスタンダードも演奏した。「チャイルド・イズ・ボーン」を奏でる際には「紛争地域でも子どもは産まれるんです」。
コンサートの最後に伊勢﨑がつぶやいた。「平和のために戦争をする。平和ということは危険ですね」。
平和の尊さを知らぬ日本の支配層に対する警告である。(敬称略)
~終わり~
※
伊勢﨑賢治。国連職員や国際NGOスタッフとしてアフガニスタン、シエラレオネで武装解除にあたるなどしてきた。「紛争解決請負人」の異名を持つ。現在、東京外語大学教授。