マンガ好きで鳴る麻生太郎副総理の面白くなさそうな顔が思い浮かぶような出来映えだ。
自民党製作の改憲マンガは、あちこちに「だまし」が散りばめられている。右寄りの人が読んでも首をかしげるだろう。
タイトルは『ほのぼの一家の憲法改正ってなあに?』。戦前派の ひいじいさん と 終戦後まもなく生まれた じいさん が、孫(息子)夫婦とひ孫(孫)に改憲を説いていく。
じいさんは「現憲法はインターネットもケータイもない頃からあった」として時代に合っていないことを強調する。
(ネットやケータイと憲法が何の関係があるのだろうか?)
ひいじいさんは「現憲法は70年前にGHQから押しつけられたんだ」と話し、孫夫婦に衝撃を与える。
(日本側がGHQに提出した草案が欽定憲法とほとんど変わらなかったため、GHQが作らざるを得なかった)。
歴史を説いた後はいよいよ改憲の中味だ。
自民党改憲草案第3章第12条は「基本的人権より公益および公共の秩序の優先」を掲げる。
じいさんがこれを説く。「基本的人権は保障されているが、公共の福祉に反することにやたらと権利を振りかざしてはダメ」と。
(基本的人権を制限してどのような体制でも作れるようにしている。自民党の改憲草案で基本的人権を削除していることには触れていない)
キモの第9条は次のように展開する。
孫夫婦が「憲法9条で日本は戦争を放棄している」と安心していると、ひいじいさんが一喝する。
「お前らは戦争を放棄すれば戦争がないと思っているのか?」と。ひいじいさんは「もし明日、どっかの国が攻めてきたらどうする?」と畳みかける。
嫁は「では一方的にやられるってこと? 息子はどうなるの?」と蒼ざめ、ふるえる。
(この くだり は嘘を交えて危機感を煽っている。専守防衛に徹して来たこれまでの安全保障体制で十分対応できるのだ。いままで通りの自衛隊の位置づけで日本は守れるのである)
もっと あくどい のは、子供の徴兵を心配する嫁を なだめすかす くだりだ。
改憲草案18条に「意に反する苦役はさせられない」として、あたかも徴兵はないように見せかけている。
ひいじいさんは「徴兵されはせんが、誰かが兵隊になるのは変わりゃせん」として、兵役を否定しない。
改憲マンガは悪質で、下らないし、説得力はない。だが、国民の心をくすぐる右派論客が登場し、マスコミがそれを もてはやす ようになった時、改憲マンガは十分な役割を果たす。
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