それは だまし討ち から始まった。12月25日に持たれた交渉の際、渋谷区「水と緑・公園課」の吉武成寛課長は野宿者と支援者に対して「年末年始は公園を開ける」と明言した。
ところが翌26日朝、美竹、神宮通、宮下の3公園を施錠したのである。年末年始でもない時期から、だ。3公園とも野宿者たちがよく使う公園だった。
狙い撃ちとしか言いようがない。見事な だまし討ち でもあった。
上に政策あれば下に対策あり。野宿者と支援者は、宮下公園と歩道の間の空きスペースで炊き出し(共同炊事)と野宿をした。
テントを張ると渋谷区に排除の口実を与えるので、夜露を浴びながら睡眠をとった。
それでも野宿者たちの表情は和らぐ。ある男性(50代)は「暖かい食事が出るのがいいねえ、皆で一緒だと安心して寝られるし」と話した。
1週間続けて毎食暖かい物が出るのは「越年越冬」をおいて他にない。集団で寝れば暴漢や不良少年に襲われる心配もない。
行政からは排除されても、民間からの差し入れが次から次へと届いた―
青森県の青果商からゴボウ100㎏、ジャガイモ100㎏、山芋20㎏。
栃木県の農家からネギ、ニンジン、白菜、ほうれんそう、ブロッコリーなどが10~20㎏ずつ。肉とコメはフードバンクから頂戴した。
調理担当の支援者は「食材はほとんど買っていない」と嬉しそうに話す。これまで(12月29日~1月3日)に、のべ1,200人の野宿者が胃袋を満たした。
炊き出しは「民間の善意と野宿者の命をつなぐシステム」なのだ。それを断ち切ろうとしたのが渋谷区だった。
取材に訪れたFCCJ(日本外国特派員協会)のマイケル・ペン副会長(米国人)は、目を吊り上げるようにして言った―「渋谷区のヘンな政策を世界に発信したい」。