猛烈なスピードで歴史のコマが逆回転しようとしている―「新東西冷戦」の最前線に立つマリウポリの人々は「ソ連時代に戻すまい」と懸命だ。
東京の日比谷公園にあたる「自由広場」。つい2~3週間前までは「レーニン広場」という名前だった。1ヵ月前に引き倒されたレーニン像の前に、9日、十字架が建った。高さ3mはゆうにある木製の十字架だ。
十字架が建つのを傍で見ていたマリヤさん(会社員・40代)は「ソ連時代には戻ってほしくない」と首を横に振りながら言った。叫ぶような声だ。
マリヤさんによれば、ウクライナがソ連の一員だった時は、教会に行くことも禁止されていたそうだ。クリスマスも家の中で祝っていたという。
十字架を支えていた男性(法律家・50代)は「十字架はウクライナという国家の威信だ。我々はベラルーシ・キエフの時代からキリスト教徒だった」と誇らしげに語った。
ソ連時代の宗教弾圧はマリウポリの人々の心に深く刻印されているのである。わずか25年前までのことだ。
この日、自由広場(旧レーニン広場)では、地元政府などの主催で団結を呼びかける集会が開かれた。各界各層の力を合わせてマリウポリを、親露勢力から守ろうという趣旨だ。
ウクライナにとって戦略要衝マリウポリはロシアに対する守りの最前線だ。思想・信条・表現の自由を標ぼうする西側陣営にとっても守り抜きたい砦だ。
だが近郊まで親露武装勢力に攻め込まれているのが実情だ。
主催者の一人は「マリウポリを守るために軍隊を支援しよう。それぞれ、できうる限り防衛に加わろう」と呼びかけた。
ある主教は胸の前で十字を切り、「故郷を守るためにも皆、団結すべきだ」と説いた。
会場には「ポロシェンコ大統領はマリウポリをあきらめるな」と書いたプラカードが目につく。
前出のマリヤさんは「人々は内心、大統領がマリウポリを捨てるのではないかと思っている」と説明してくれた。
貧弱なウクライナ軍は、ロシアがバックアップする武装勢力の侵攻を防ぎきれないだろう。欧米がハシゴを外した時、マリウポリは一気に冷戦時代に戻る。