「トンネル」と言うとハマスの軍事用トンネルばかりが注目されているが、かつてガザには人々の暮らしを支えてきた「民生用トンネル」があった。
ハマスを極端に嫌う軍事政権がエジプトに登場したためトンネルは破壊された、と伝えられている。
真偽をこの目で確かめるためにエジプト国境の町ラファに行った。伝聞は本当だった。
ガザとエジプトとを結ぶ密輸トンネルは、最盛期には大小約1,800あった。だが、イスラエル軍の空爆によりガザ側の出入口はほとんど潰されていた。
極まれに開いていても、エジプト側が塞がれている。
大きいトンネルは自動車や牛、小さいトンネルは食料品や医薬品などをエジプトから密輸するのに使われていた。
イスラエルに包囲され“兵糧攻め”にされる、ガザの命脈とも言えた。命脈はイスラエル軍とエジプト政府によって奪われたのである(※)。
筆者が潰されたトンネルを撮影していた時だった。通りがかった近所の子どもが、ジェスチャーで空を指さしクルクル回した。無人攻撃機が飛んでいる、という意味だ。
確かに上空を旋回する無人攻撃機の飛行音はうるさかった。それから数十秒と経たぬうちに近くで警告弾の弾ける音がした。
トンネル周辺の建物はことごとく破壊されている。イスラエル軍は建物の地下がトンネルの出入り口になっているものと睨んでいたのだ。
イスラエルはパレスチナ人が別の場所にトンネルを掘るのではないか、と神経を尖らす。
無人攻撃機が空低く旋回し、頻繁に空爆した。「ドーン」。爆発音と共に田園地帯から灰色の煙が上がる。
イスラエル軍の攻撃対象が田園地帯にまで広がったのだ。野菜、オリーブ、レモン畑はトンネルの出入口を隠すのに格好の場所だ。
住民はたまったものではない。ある農家は屋根に爆弾の破片が落ちてきて穴が空いていた。
ニャマ・アル・アハラスさん(60歳・女性)は「孫が毎晩うなされて眠れない」と怒りをぶちまけた。
アハラスさんの家の前をロバの荷車に乗って避難する家族がいた。アブ・アムラ家の人々だ。
アムラ家はこの日午前3時、空爆され、家は粉々に破壊された。3分前に警告弾が落ちたため家族は逃げのびて無事だった。
イスラエル軍はアムラ家の地下がトンネルの出入口になっていると疑っていたのだろうか。
アブ・アムラさんは事実関係を話しただけで、ロバにムチを入れ家族と共に避難先に急いだ。
ハマスを目の敵にするエジプトのシーシ政権は、人道支援などに限って国境を開けていたが、戦闘激化でそれも閉じた。もちろんエジプト国境経由で生活物資は入らない。
ガザの人々の命脈を断つような所業は、イスラエルとエジプト軍事政権への憎しみを募らせるだけだ。憎しみはテロにつながる。ひいては地域の不安定化をもたらす。
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(※)
医薬品、ガソリン、食料など生活に欠かせない物資は、イスラエルが管理するケレーム・シャロームという検問所を通じてガザに入ってきている。
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