福島の惨劇は何だったのだろうか。安倍内閣は今朝、「原発を重要なベースロード電源である」とした経産省の「エネルギー基本計画」を閣議決定した。
「原発ゼロを撤回するな」…首相官邸前には閣議決定に反発する市民たちが正午頃から続々と詰めかけ怒りの声をあげた。呼びかけたのは毎週金曜日夕方「再稼働反対」を2年間に渡って訴えてきた首都圏反原発連合。
閣議決定された「エネルギー基本計画(案)」を読むと唖然とすることだらけだ。開いた口が最後まで塞がらない。
先ず大前提からしてウソだ。第2節の2「化石燃料への依存の増大による国富の流出」で――火力発電のための輸入燃料費は、ベースロードとして原子力を利用した場合と比べ、約3・6兆円増加すると試算される、とある。(第8ページ)
「原発はコストがかからないんだよ」。経産省はまだこんな古典的なマヤカシが通用すると思っているようだ。
これが真っ赤なウソであることは元東電技術者の小野俊一氏が講演や著書で告発し続けている。小野氏が在職中の東電社内資料によると1kwh発電するのに福島第一原発は15円を要した。火力はわずか2~3円だ(1995年頃)。
原発は事故が起きなくてもこの高コストなのである。小野氏によれば原発の発電コストが図抜けて高いのは東電社内の常識だった、という。
《大手を振って再稼働》
第3節の3「原子力利用における不断の安全性向上と安定的な事業環境の確立」――原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。(第40ページ)
再稼働がいよいよ大手を振って歩き始めたのだ。原子力規制委員会とは再稼働を正当化するための機関だったことが改めて明らかになった。九州電力の川内原発は早ければ今夏にも再稼働するとの見方がある。
再稼働のはてには、「プルサーマルの推進」「六ヶ所再処理工場の竣工」「MOX燃料加工工場の建設」「むつ中間貯蔵施設の竣工」とくる。(第43ページ)
事故を起こした福島原発3号機はプルサーマル事業のひとつだ。フルMOXの大間原発は、自治体から差し止め訴訟を起こされようとも建設、運転するのである。
「再処理工場」は巨費をドブに捨てるに等しい。ある国会議員のもとに電力会社の幹部が説明に来て「先生、しばらく動かないから(事故は)心配ないですよ」と言ったそうだ。
壮大な無駄と分かっていても、安倍政権と原子力村にとっては事業を続けることに意義があるのだ。血税を使われて危険な目に遭わされる国民はたまったものではない。
第10節「エネルギー国際協力の展開」で、原発輸出は「(相手国の)エネルギー源確保のため不可避」とした。(第66ページ)
ここまでくればもう原発全面解禁である。安倍政権はすべてを「3・11」前に戻した。
官邸前にはたまたま今日が「休み」のサラリーマンや孫のためにも原発をなくしたいという年金生活者たちが訪れて、「閣議決定に反対」の声をあげた。
さいたま市の会社員(男性・50代)は2年間ほぼ毎週のように「金官」に参加してきた。男性は「くやしい」と奥歯を噛みしめた。「閣議決定されてもあきらめずに声を合わせていくことが大事。強い民意を見せつけることで国にプレッシャーをかけたい」。
「怒りが湧く」と話すのは都内の会社員(男性・40代)だ。「大学院で物理を学んだ身としては、あんな危険な物を動かしてはならないという気持ちで来た」。
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