弱者にとっての最後のセーフティネットが有名無実になろうとしている。今国会で安倍政権が成立を目指す「改正・生活保護法案」に、申請を絶望的なまでに厳格化する項目が含まれていることがわかった。
危機感を抱いた生活保護支援団体や弁護士がきょう、厚労省で記者会見を開いた。
法案がそのまま通った場合、今にも倒れそうな人が生活保護を利用できなくなる可能性が高く、人道上の問題も出てきそうだ。
生活保護申請はこれまで本人や支援者が口頭で可能だったが、改正法案では必要書類を揃えて提出してからでないと申請できなくなる。
「本人の資産」「かつて勤めていた職場の給与明細」「家賃の支払い」などの書類を提出しなければならないのだ。
ホームレス状態にある人が銀行の通帳を、年金手帳を、家賃の支払い帳を、持っているだろうか? ブラック企業に勤めていた人が給与の明細書を持っているだろうか? 無理難題のオンパレードである。
生活困窮度の高い人ほど持っていない書類を揃えなければならないのだ。本当に必要な人ほど申請しづらくしているのが、改正法案の特徴である。
もっと恐ろしいのは、保護申請者本人のみならず扶養義務者(主に親族)の資産まで行政が調査できるようになっていることだ。
親族に知られたくないので生活保護申請を諦める人はザラにいる。資産まで調べられることで親族に迷惑がかかるということで、保護申請を諦める人はさらに増えるだろう。
ベテラン・ケースワーカーの田川英信さんは「許しがたい」と憤る。「これまでは家賃の支払い帳、給与明細が揃っていなくても申請を受け付けなければならなかった。ところが今度はそれがなければ申請行為とみなされない。(役所の窓口で申請者を追い払う)水際作戦の口実に使われることは火を見るより明らか」。
田川さんは記者会見の後、筆者に「書類を揃えられないので申請者は激減するだろう。(生活保護行政の)コペルニクス的転換だ」。
田村憲久厚労相は「法律に書くだけ。運用面では変わらない」と記者会見で答えているが、現場を知らないにも程がある。長年、生活保護申請者に対応してきた田川さんによれば「運用が180度変わる」のだ。
NPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典さんは、厚労省社会保障審議会の委員として、改正法案の検討に関わってきた。藤田さんは「(先ず書類提出ありきは)審議会の議論で一度も出て来なかった」と明言する。政府が本当に狙っていることは、法案の中にこそっと紛れ込ませる。常套手段だ。
「私たちは権利を実現するために口頭での申請を大事にしてきた。(生活保護の)一番いい所は本当に困ったら“助けて”と声をあげること。行政が応えること。それが国民の生活を支えてきた。それをいろんな形で書類をつけないと“助けて”と言えない状況になる」――生活保護問題に長年携わってきた尾藤廣喜弁護士は唸るように話した。