栃木県のシイタケ農家の男性が「原発事故の風化」に抗議して東京電力本社前でハンストを決行した。ウクライナではチェルノブイリ原発事故から26年経ち、惨劇が風化する一方で、キノコはじめ食品の放射能汚染は続く。
首都キエフからチェルノブイリ方面へ北上する真っ直ぐな幹線道路。森林のなかを走る道の脇に「きのこ売り」がポツポツと立つ。バス停を利用した“販売店”に寄ってみた。
「放射能測定はしているのですか?」。今朝森から採取したばかりと言うみずみずしさだが、キノコは放射能を吸収しやすい。筆者は売り場の男性に聞かずにはいられなかった。
「町の測定所でしているよ。放射能は問題ない」。男性は、「何でそんなことを聞くのか?」と言わんばかりの表情で答えた。
約1キロを袋につつんでもらい千円ほど払った。現地の通訳は「高いよ」と顔をしかめた。日本へ持ち帰り放射能測定をしたところ、セシウム137が132ベクレル(※1)検出された。
日本では100ベクレルを超えると出荷停止となるが、ウクライナではきのこの放射能食品基準が500ベクレルであるため、「安全」だというわけだ。キエフの大衆レストランで食べた山盛りのキノコ・ソテーが時々頭をかすめる。
ウクライナの放射能基準は食品ごとに違う。穀物など毎日口にする食品の基準は低い(規制は厳しい)が、たまにしか食べない物は高い(規制はゆるい)。実際、現地の人々が頻繁に食べていても、政府が「たまに」と認定している食品もある。
穀物・麺類:30ベクレル/ kg
野菜・果物:40ベクレル
ミルク:100ベクレル
ひまわり油:100ベクレル
魚:150ベクレル
肉:200ベクレル
生のベリー(ブルーベリー、クランベリー):500ベクレル
これに加え、子供が口にする食品の基準は全て40ベクレル未満と法律で決められている。だが、スーパーマーケットでベクレル表示がされている訳ではない。ミルクやベビーフードなどの幼児食品は基準が守られているが、それ以外の食べ物は疑問である。
ベリーやキノコなど放射能が多く出るものは、基準値を高く設定し妥協するしかないのだろうか。
現地で通訳してくれたローマさん(23歳)の言葉を思い出す。「スーパーですべての食品を買える人は限られています。田舎では食べ物を買うお金がありませんし、安全基準という言葉の意味も分からない人も多いです。また、ウクライナ人、特に田舎の人は、放射能を気にしません」。
ウクライナではチェルノブイリ事故(1986年)後も原発は建設され、現在4か所15基が稼働している。国民の原発に対する抵抗感は少なく、放射能の心配もあまりしていない様子だ。世界を震撼させた事故も、今は年に一度、4月26日(※2)に記念式典が行われるだけだ。
特に原発から130キロ離れ、深刻な汚染を免れた首都キエフに住む人々にとって事故は過去のものとなっているようだ。「原発事故を考えるのは年に一回、記念日の時だけ」。こう話す人も少なくない。
原発事故が風化する一方、地方の低汚染地帯での健康被害は増え続けている。ガン、心臓疾患、虚弱な児童などだ。経済的な理由から自家菜園や野山で採取した汚染食品を食べ続けていることが原因の1つと言われている。
福島原発事故を福島だけの問題として早々と収束宣言し、矮小化を図る日本政府。事故の風化が進む日本の姿とウクライナを重ねずにはいられない。
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(※1)No Nukes Plazaたんぽぽ舎・放射能汚染食品測定室にて測定
(※2)チェルノブイリ原発事故 1986年4月26日に発生