文豪・夏目漱石の「坊ちゃん」で知られ、レトロな路面電車が城下町の雰囲気に溶け込む伊予松山。
16日、約80名の市民が「伊方原発の再稼働反対」を訴えるため愛媛県庁を訪れた。前日の緊急集会で結成された「伊方原発再稼働を許さない市民ネットワーク」の面々だ。午前10時、それぞれの想いを託した申入書を中村時宏知事に提出するため庁舎の中に入った。
申入書を受け取りに来たのは、もちろん中村知事ではなく、副知事でもない。原子力安全対策課の6名だった。約80名が入るということで用意された部屋は椅子もない。皆が床に座らされた。
申入れ提案者の小坂政則さんが、原子力安全対策課のリーダー格と名刺交換をしようとすると、「それは出来ない」と拒否した。首に下げたIDカードで名前を知ることができた。「影浦久」と記されていた。
IDカードの写真を撮ろうとすると「止めて下さい」と言って手で隠した。市民の話に耳を傾けないように訓練された態度は、霞ヶ関の官僚を思い起こさせる。「もしや、保安院(からの出向)ではないだろうか」との憶測も飛んだ。人を見下すような冷たい目が印象的だった。
市民たちはまず、中村知事宛の要請書と集会宣言を読み上げた。
影浦氏「申入書を一人一人受け取るという事でしたが…」
市民「まず、今の要請内容を聞いてどう思ったか?」
影浦氏は「時間が無い」と理由をつけ、一人一人からの受取を拒否しようとしたが、市民からは矢継ぎ早に質問が飛んだ。
市民「福島の事故後、防災対策はどうなったのか?
影浦氏「国の防災計画に基づいて決める。準備はしている」
市民「地震想定区域が拡大した事は認識しているのか?
影浦氏「(認識)している。震源域が2倍になったが、伊方原発はぎりぎりの所にある。明確に区域に入っているかは確認していない」
市民「確認していないとはどういうことか?仕事の怠慢だ。入っているのか、入っていないのか?
影浦氏「(地震想定区域に)入っている」。市民側が追及すると影浦氏は渋々認めた。
市民「保安院から出されたデータに、問題点や疑問点はないのか?
影浦氏「……」。返答に窮した氏はダンマリを決め込んだ。
長年原発に反対してきた市民たちからの鋭い質問に、影浦氏はまともに答えようとしない。いや出来ないといった方が正確か。その様子をみて、福島から来た木田節子さんは言った。
「あなたの態度は、先生に怒られているいたずら小僧と一緒です。あなたは、柏崎刈羽で子供たちが首から下げているものが何か知ってますか?」。
影浦氏「サーベイメーター(携帯用の放射線測定器)・・・」
木田さん「違います。安定ヨウ素剤(※)です。福島事故から1年も経ったのに、いまだに原発周辺地域で安定ヨウ素剤の配布すらしていないのはどういうことですか?」。
質問が止む気配は全くない。だが時間も限られているため申入れを始めた。市民たちの申入れは、2時間も続いた。それでも、皆まだ言い足りないようだった。
「お願いします。どうか私たちの想いを知事に伝えてください」。
「知事にはお伝えします」。影浦氏は事務的に答えた。
一言のメモも取っていない影浦氏がどうやって市民のメッセージを知事に伝えるのだろうか。頭の中にICレコーダーが内蔵されているわけでもないだろうに。
地元の決定権者である中村知事は、一貫して「再稼働の是非については、白紙である」と言い続けている。
知事の発言に『原発さよなら四国ネットワーク』の松尾京子さん(60歳)は「無責任だ」と憤る。松尾さんは続けた。「福島の事故を経験した後に、白紙ということはあり得ない。国の判断を待って、国が再稼働を進めるから、自分も再稼働するかどうか考えるのではなく、まず原発立地県として、県民の命を守るはずの知事自らが意思を示すべきだ」。
気持ちの収まりがつかない市民たちは帰り際、県庁入り口で四万十市の脱原発テーマソング「メルトダウンブルース」を大合唱した。「♪へへ〜い、中村くん 伊方はアブね〜、メルトダウンだぜ〜♪」
ネットワークのメンバーは、知事の返事を受け取るため再び県庁を訪れる予定だ。
(文・諏訪 京)
(※)新潟県柏崎市は市民からの要望を受け、平成19年度から市内の小中学校へ安定ヨウ素剤を分散配置している。県の要請により、一部の薬局で購入も可能。
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