14日午後3時23分、枝野幸男経産相を乗せたシルバーのワゴン車は、人目を避けるように裏門から福井県庁に滑り込んだ。大飯原発の再稼働に反対する市民約200人が待ち構える正門を避けたのである。
裏門から入ったことを知らされると正門では爆発音のようなブーイングが起きた。「再稼働反対」「エダノは帰れ」…シュプレヒコールが耳をつんざく。
枝野大臣はこの日、再稼働への理解を要請するために福井県庁を訪ね、西川一誠知事やおおい町の時岡忍町長らと面談することになっていた。反対派は枝野氏の入庁を阻止しようと、正門前でピケを張り気勢をあげた(写真・上)。
肩透かしをくらった彼ら彼女らの怒りは収まらない。正門から約50m先の県庁玄関前まで一気になだれ込んだ。玄関を固めていた警察隊と激しい押し合いになった(写真・下)。公妨による逮捕者が出てもおかしくないほど騒然とした。「(庁舎の)中に入れろ!」。怒号が飛ぶ。
30分間にわたる県幹部との交渉の末、反対派のうち3人が入館を許され、環境担当の部署に「再稼働反対」の申し入れをした。
福井県は保守的な土地柄で経済は原発に依存してきた。「原発反対」を口にするには相当な覚悟が要る。県庁前で「再稼働反対」を訴える市民の多くは、京阪神から駆け付けた人達だ。
筆者(諏訪)は地元福井県の参加者を何とか見つけインタビューした。もんじゅから30キロ圏内の越前市に住む女性(60代)だ―
「今まではお上を信じていたが、311以降は信じられなくなった。地域の中で人と一緒にしていれば安心だった。もの言う県民性ではないので、集会参加は勇気のいることだ。地域でレッテルを貼られるから。原発は普通の人が『これはおかしい』と思うような問題。私は学生運動もせず普通に生きてきた。そんな私を立ち上がらせたのが原発問題だった」。女性は自らの人生を反芻するように、言葉を選びながら語った。
社会の隅々にまで電力会社からの寄付金が行き渡り、国からの交付金が財政を支える「原発立県福井」。福島の事故と大飯原発の再稼働は「長い物(原発)には巻かれろ」の県民意識を変えつつあるようだ。
(文・諏訪 京/田中龍作)
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