11日午後6時、スレイマン副大統領がムバラク大統領のステップダウンを正式に発表すると、タハリール広場は大きな爆発音のような歓喜が沸き起こった。半信半疑だった昨夜と違って人々の喜びの声は力強かった。
「市民が独裁体制を倒したぞ」「アラー・アクバル(神は偉大なり)」・・・。昨夜までのような「ムバラク出て行け」コールはない。
スーツ姿の若い男性(20代)は、「生まれてこれまでムバラクレジームしか知らなかったんだ、信じられない」と顔をクシャクシャにしながら筆者を抱きしめた。
青年たちが座り込んでいた戦車前にはたどり着くことができなかった。昨夜以上の人出だ。
ネットで呼びかけ合った市民革命は蜂起から18日目に勝利をつかんだ。新聞・テレビと違い市民一人一人が情報発信するネットは、独裁政権といえども簡単にコントロールできない。
政府批判を唱えれば簡単に逮捕されるムバラク独裁体制下で、青年たちが「打倒ムバラク」を国民に呼びかけることができたのもネットがあればこそだ。インターネットの普及がなければ「エジプト市民革命」はなかった。
日本の記者クラブメディアのように国民を洗脳するシステムがなかったことも幸いした。
米国が工作すれば大きなシッペ返し
オバマ政権はスレイマン副大統領を軸に後継体制を構築しようとやっきだ。スレイマン氏がイスラエルともハマスとも話しができるからだ。
タハリール広場にはスレイマン氏を模した操り人形が一昨日あたりから登場し人々の嘲笑を浴びている。「ムバラク大統領の操り人形」に過ぎないという意味だ。スレイマン副大統領に寄せる国民の信頼は、米国の期待とウラハラに薄い。
一方、武装闘争を否定し福祉活動にも力を入れる「ムスリム同胞団」は国民の信頼も厚い。だが米国にとっては最も嫌な存在だ。
第1次世界大戦以来、中東は長らく欧米のご都合主義に翻弄されてきた。パレスチナの悲劇はその所産であり、「9・11テロ」は報復でもある。米国がエジプトの新体制作りに身勝手な工作をすれば、とてつもなく大きなシッペ返しを食らうことになろう。
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