ムバラク大統領が引続きの最高権力者の座に留まることを表明したため「反ムバラク派」の怒りは収まらない。「続投表明」翌日の11日、反ムバラク派は「エジプト国営放送」に突入をはかった。
朝鮮中央放送がそうであるように独裁国家の国営放送は権力者のプロパガンダ装置だ。エジプト国営放送も例外ではない。タハリール広場に「打倒ムバラク」を叫ぶ数十万人が集まっているにもかかわらず、「3百人」と伝えるなど大統領べったりの報道姿勢は国民の反発を招いていた。当然、反体制派の標的となる。警戒は極めて厳重だ。
国営放送前の道路はコンクリートブロックで塞がれ、10台近い戦車が建物の周りを固める。歩兵がさらに戦車の周りに配置されている。蟻の這い入る隙間もない、とはこのことだ。
国営放送はタハリール広場から北西へ1キロ程行ったナイル川の畔にある。国営放送につながる道路も軍が戦車を置いて容易には入れない状態だ。広場を出た反ムバラク派のデモ隊はここをすんなりと通過した。軍はデモ隊を止めなかったのである。デモ隊はさらに国営放送からわずか数十メートル手前のコンクリートブロックも脇に回ってなだれ込んだ。
国営放送玄関まで数メートルの所には鉄条網が張られ、銃を構えた数十人の兵士がガードする。デモ隊はここまで突進したのである。だが鉄条網は破れなかった。打楽器のリスムに乗って「ムバラク出てゆけ」のシャンテを1時間余り繰り返した。
NHKに喩えるとこうだ。渋谷の公園通りに設けられた軍の検問所をすんなりと通過し、代々木公園入り口のコンクリートブロックも脇に回って潜り抜けた。スタジオパークの玄関前まで突進したが、鉄条網と軍隊のガードに阻まれた。
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