タハリール広場南入り口は外国人はじめ多くの人々が利用する。軍のチェックを潜ると人々を迎えるのは「打倒ムバラク派」のシャンテだ。「ムバラクは出てゆけ」「エジプト国民に自由を」・・・ドフと呼ばれる打楽器が打ち鳴らすリズムに乗ったシャンテは、徳島の阿波踊りを思わせるノリだ。踊り始める市民も現れる(写真)。
「打倒ムバラク派」は軍と背中合わせの場所で、市民を歓迎するのである。とりわけ外国人ジャーナリストはねんごろの“出迎え”を受ける。腕を組まれて踊りの輪に引き摺り込まれることも珍しくない。踊りが終わると「写真を撮れ」とジャスチャーでアピールだ。
軍と一体であることを海外にアピールするのが「ムバラク打倒派」の狙いである。軍に対しても「世界と我々はつながっているんだぞ」と訴えているのだ。
広場はムバラク大統領を風刺した漫画や合成写真がひしめく。「警察に逮捕されたムバラク」「ヒトラーの顔の部分がムバラク」・・・。絞首刑にかけられたムバラク人形さえある。大統領批判など夢の中でさえできなかった市民たちが独裁への怒りを一気に吐き出しているようだ。
だがムバラク大統領は後継体制作りが混迷していることを奇貨として政権の座から降りようとしない。
ネットで呼びかけあって蜂起してから16日が経つ。業を煮やしつつある「打倒ムバラク派」は、金曜礼拝のある明後日(11日)にも大統領宮殿へ向けてデモをかける予定という。軍がデモを武力で鎮圧するのか、それとも容認するのか。軍の出方しだいで国民の間に高まる「反ムバラク」のベクトルは180度違ったものとなる。
毎午後仕事を終えて広場に駆けつける男性(40代・技術者)は「ここ数日がエジプトの将来を決める。民主主義国家として発展するのか、沈むのか、大きな分かれ目だ。軍が武力鎮圧しないことを願っている」と祈るような表情で話した。国際社会も固唾を飲んで見守る。
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